目次
その1・入社前、実習生時代
その1
ようやく、新シリーズのスタートです。
最初に断っておきます。
大袈裟なタイトルを付けてますが、そんな大層な話ではありません。所詮、私のレベルですから、笑わないでください。
「実録ハイテク物語」と云っても、ハイテクそのものの話をやるのではありません。知りませんから。
ハイテク技術の理論がドオコオと小難しい事もやりません。やろうにも、そんな知識がありません。そしたら、ナニをやるのか。
私がハイテク企業と称する「電子部品製造」会社に入社して、色んなことがありました。
その過程を通じ、ナニをして来たのか。どんなことがあったか。どんな失敗をして、どんな対策をして来たのか、そんなお話です。
これがハイテクかと疑われそうな話が多いと思います。それに、昔の話になってしまうのですが、本質は陳腐化してません。
時折、入ってくる情報も、不良内容も、全くオナジです。
現在では過去の対策経過を知ってる製造技術の経験者も少なくなりまして、対応に困ることもあるらしいです。
この話を関係者が読んだら、正直過ぎると叱られるか、そのとおりと苦笑されるか、そんなことがあったのかと参考にして貰えるか、どおなんでしょうかねえ。勿論、大間違いで失笑を買うこともあるかも知れません。私の記憶も頼りないですから。
そして、ハイテクと云うと、時代の最先端で華やかそうに聞こえますが、実務としては泥臭いものです。
そのドロドロの泥臭いハナシを私の眼を通して掲載したいと思てます。
そもそも、「ハイテク」とは、「High Technology」の略で、「高度技術」或いは、「最先端技術」を意味します。
それに対応して、「ローテク」(「Low Technology)という言葉もあります。
特に技術も要らない作業と云う意味になりますが、その「ローテク」にこそ、「ハイテク」は支えられてます。
むしろ、「ハイテク」といえど、実務は、「ローテク」に近いものばかりです。
看板に偽りアリと抗議されるかもしれませんが、お気楽にお入りください。
(99/04/26)
もお一度、お断りしておきます。
しばらくしたら、専門用語も多少出て来ますが、クドクドと説明はしません。
必要と思うときだけ、簡単に概念的な説明をします。
そしたら、理屈云いの専門家からウソやと文句云われそおですが、それで結構です。
電子部品の理論的解説等々、製造技術の詳細を解説し出したらドンドン源流に戻ってしまいます。
専門外の人はイヨイヨ分からなくなりますし、私もたいして知りません。そんなことしてたら、ナンの話か分からんよおにもなります。
では、話に入ります。
京都の西大路五条にある、「ローム」というのは私が入社した頃、「東洋電具製作所」と云う名称でした。
「東洋電具」から、「ローム」に、どおして変わったのか。
もともと、電子部品の抵抗器の製造からスタートしたからです。抵抗器は英語で「Resister」。単位は「Ω(Ohm)」です。それを続けて「ROHM」としただけのことです。
入社(昭和44年)の頃は、約400名程度の中小企業。男子50名、女子350名程度の陣容と記憶してます。
協力会社が各地(山口、岡山、香川)にありまして、総勢は2000名程度と思います。
その後、急激に増え、現在ではロームだけでその程度。グループ全体では万単位になってます。
この当時は現在とまるで違って、極端な人材難。ホカの学科、学部のことは知りませんが、電子、電気とか、機械関係を専攻の学生の場合、求人が5倍以上あったよおに記憶してます。
兎に角、就職サキの心配なんかしてませんでした。
その4回生の6月頃、大学の実験室に居たら、見慣れん人が二人入って来て、いきなり、
「オマエラ、4回生かいな。どおや、会社見学しやへんか。車で連れてったるで。
定員は三名。会社まで、30分も掛からんわ。」
4回生ですから、就職のことは多少考えてたけど、なったばっかりで、真剣には考えてませんでした。
むしろ、車に乗せてもらえることの方が嬉しい頃です。
大学のカリキュラムで、関西電力等々、何社か見学したことはありますが、製造会社はありませんでした。
そんな忙しい身分でもナイので見学に立候補。
その時の運転手が山内さんで、当時、抵抗器のQC主任。もお一人が当時抵抗器QC課長の植村さん(植村技研の社長。注:解散しました。)。
会社に着くと、早速、工場見学。ビックリしました。
若い女の子が沢山で作業してます。山内さんが各工程を説明してくれたのですが専門用語が多すぎて理解出来ませんでした。
と云うより、タダタダ沢山の機械があって鳴り響いて、話そのものが聞き取り難いのです。
製造工場は五月蠅いと云うのが実感でした。
(99/05/01)
工場見学が終わると、人事担当のヒトが現れました。
ロビーに招かれて、
「これに、名前と、住所を書いてんか。」
出された書類は、「履歴書」です。
「生年月日、学部、連絡先とか、イマ、分かってる範囲だけでエエで。」
そして、数日後、会社から、試験日の通知が届きました。
ナニか、レールに載せられた感じで、入社試験を受けに行きました。
入社試験場には、同級生も何人か居ました。
試験内容は、一般常識。論文、数学、物理、電気理論。
正直なところ、数学とか、学科試験の問題はやたら難しい。大学入試じゃあるまいに。サッパリでした。仲間で、愚痴話です。
「あんな問題。回答出来るのは、出題者だけとチガウか。」
そもそも、問題の意味不明。ナニを問うてるのか。白紙ではないけど、それに近い状態。
論文は、
「特技はナニかを述べよ。」
こんな漠然としたモノです。
特技て、ネエ。思い当たるモノはナイ。水泳とか、卓球は好きやったけど、特技と自慢出来るホドの範疇ではナイ。
ナニを書けば良いのか悩んだけど、結局、こんな特技があったらエエなあと云うのを書いた。
どんなコトか。
空を飛ぶこと。イヤ、洒落でも冗談でもナイ。真面目にそう考えてました。
これでは、マズ、アカンでしょう。
私には、一般常識はナイ。学科試験は無茶苦茶。論文は、そんなこと。
夏休みでも終わったら、何処か探しましょう。
そう思いながら、帰宅しました。
確か、交通費が幾らか出たように思います。金額は覚えてませんが、交通費の名目で、日当程度の額でした。
しばらくしたら、又、会社から、通知が来ました。
第二次試験をやるとか。
マエのは、第一次試験と云うことです。
それにしても、アレで、ヨオ合格になった。
あれで合格なら、全員合格やろと思てたら、15名が受けて、10名程度になってました。
どうも、試験が不出来のを合格させた気配がアル。(事実のようです)
第二次は、クレペリン検査とか、職業適正検査、身体検査の類。
クレペリン検査は、私には意味がナイのです。全部出来てしまう。
これは、出来た数の推移を見るらしいけど、全部やってしもたら、波がナイ。
そして、アンケート。ドノ部署を希望するか。
開発、設備、製造、営業、購買、その程度の分類。
私は、製造を希望しました。理由は、女の子が多い。それだけのこと。
これで、オワリでは無かった。
又もや、イツイツ、出社しなさい。第三次まであったのです。
第三次は面接でした。
重役室に入れられて、一対一の面接。
後日、その相手は、抵抗器製造部の部長であることを知りました。
「キミは、マイホーム型か、モーレツ型か、どちらを指向しますか。」
「私は、モーレツ型です。」
マイホーム型か、モーレツ型か。これは、当時の流行り言葉。
その会話だけを記憶しています。
心にもナイ答えをしたのではナク、実際、モーレツ型を理想と考えてました。
(99/05/04)
「タケチャン。ナニかあったんか。」
ムコウ三軒、両隣り。そこの小母さんから、報告が入りました。
興信所らしきヒトから私のことを、根ほり葉ほり聞かれたようです。
ダレやろ。ナンのために。ナニも悪いことした覚えがナイ。
ナント、その興信所が家に来たのです。
「入社試験を受けられたのですねえ。」
いきなり、そう云うて、
「他言無用ですよ。
依頼主とか、目的、身分を明かしたらアカンのです。
結婚とか、浮気の調査でもありませんから、秘密にしても仕方ナイしねえ。
市役所、近所で、分かることと、分からんことがある。」
それで、ナニを聞かれるのかと思たら、在籍中の大学、家族構成、家は借家か持ち家か、親の収入とか、その程度。
履歴書に書いた程度のコトです。記載内容にウソがナイかの確認かなあ。
この調査員は気楽なヒトで、私が何人目とか、ダレソレは、近所の評判が悪い。
国籍がドウとか、聞きもセンことをペラペラ喋る。
そのダレソレは、知り合いでもナンでもナイ。聞き始めで、面識もナイ。
つまりは、面接も通過したようで、オナジ電気工学科から、三名が入社することになりました。
そして、夏休み。
「実習」との名目で、約一ヶ月、会社に出社しました。
日当もありますし、アルバイト先を捜す手間が省けた気分です。
私は、抵抗器QC課に配置されました。
車で工場見学に案内した先輩(課長も主任も大学の先輩です)の部署です。
実習は、その先輩社員の部下の元で、信頼性(管理)試験です。
専門用語が、やたら飛び出して、ナニがナニやら、チンプンカンプン。
抵抗器は見たことはありますが、信頼性試験と云うのは、知りません。
サンプルを渡されて、抵抗値を測定して、試験が出来るように、半田付けして、試験室と称する場所に持って行く。
それだけのことですが、右も左も分かりませんし、試験がナニかも知らりませんから、ただただ、云われるがままにやるだけです。
目的は最初に教えて頂き、メモはしてますが、一から十まで分かりません。
一週間くらい経過して、ようやく、会社の雰囲気にも慣れ、質問が出来るようになりました。
しかし、ナニから聞いてヨイのやら。
そもそも、QCとはナニか、信頼性試験とはナニか。それで、私はナニをしてるのか。
そこから分かりません。もっと、親切に教えてくれたらエエのに。
兎に角、先輩を捕まえて、聞きますと、
「まだ、そんなこと分かるコトはナイ。説明しても、消化不良になるだけやで。」
(99/05/08)
実習そのものは、センセイに、云われるがままにやるだけ。
試験によっては、試験装置にセットせんとあきません。
ナニも知らん、ド素人が下手なことをして、事故とか、壊すとか、したら大変ですし、触らさせてはもらえません。
ですから、装置へのセットは試験担当の女性がしてくれました。
そしたら、私は、ナニをするのか。
試験するサンプルを持って、装置がある部屋(試験室)について行くだけ。
ところで、不動産(家、土地)、クルマなど、こんなものは、出来れば大きいホウが結構です。
テレビ、冷蔵庫も、許されることなら、大きいホウが快適で便利です。
ところが、電子部品などは、「軽薄短小安信」を要求されます。
ちなみに、「安信」は私が勝手にくっつけただけです。ホントウは、「即」も付けるべき。
すると、「軽薄短小安信即」になる。
勿論、電子部品でも、用途によっては、安全性のため、大きく、余裕を持ったものを要求されますけど、一般的には、重量は軽く、厚さは薄く、長さは短く、小型であること。
更に、価格が安くて、信頼性の高いことが要求される。追加で、即納です。
例えば、ノートパソコンは軽くて、小さいホウがヨイ。
沢山の部品が使われてますし、一つ一つの部品が軽いと、その分、軽くなる。
小そおしたら、小型化が出来て、持ち運び易くなる。
かと云って、値段が高いと手が届かない。そのウエ、スグ故障したら、アホ臭い。
部品がいつまで経っても納入されんかったら、その部品だけで、パソコンが作れません。
要するに、ノートパソコンなんかは、部品の集合体。
表面的に見えてるのは、液晶パネル、キーボード。所謂、本体だけ。
これが、重量的にも、一番重いけど。
性能で、問題にされるのは、HDD容量、メモリー、CPU、モデム等々。
これが、主要部品と称するもので、最重要です。値段もこれで決まるようなモンです。
それ以外にも、カバーを外して、分解して、基板を見たら、一杯、部品がくっついてます。
このくっついてる部品ですけど、現在は、チップ部品と云って、米粒より小さいものが大半になってます。
この当時(昭和43〜44年)も、その傾向はあったけど、チップ部品なんか、影も形もナイ。
このとき実習で触った抵抗器。
大きさは、それこそ、米粒の両側に針(リード線)を刺した程度です。
チップ部品と云うのは、このリード線がナイやつ。
この米粒が本体やから、付属のリード線が遙かに目立つ。
実際、重量も、本体より、こっちが、数倍、重い。
そうかと云うて、無かったら、使いようがナイ。配線が出来ません。
余談ですけど、そしたら、チップ部品はどうしてるのか、そんな大きなリード線の代わりに、米粒(本体)に、メッキしてるのです。電極と称してます。それで、グンと軽くなった。
その代わり、ムカシやったら、リード線が付いてるし、電気屋さんで、部品でも買おて、修繕も出来たけど、そんな米粒だけやったら、マニアでも、半田付けなんか出来ません。
そういうこともあって、電気製品(テレビ、ラジカセとか)が故障して、修繕にでも出そうもんなら、部品一つがダメでも、基板毎、交換されてしもて、修繕代が、桁違いに高くなる。
ハナシを戻します。
試験そのものは、付き従うだけですが、その準備作業がある。
試験によっては、そのリード線の両端を裸線(フリード線と云います)で半田付けして、筏みたいにするのやけど、それが難しい。
半田が旨く着かないのです。
半田付け、そのものは、家が電気屋で、大学での専攻も、一応、電気工学ですから、時々はやったことがありますが、そんなもの、たまです。
大量にはやったことがナイ。
イヤ、正確には、自分としては、やったこともあるし、早く、かつ、旨くやってるツモリですが、ちゃんと、くっついてナイ。筏が外れて、沈没。
「ナンエ、コレ。あかんやんか。」
先輩の女性、云うても、年下ですが、笑われてばっかり。
それは最初だけで、しまいに、
「そこ、退いて。邪魔や。やったげる。」
見るに見かねて、親切心。
それもあるやろうけど、はっきり云って、半田付けの作業場を、度々、実習生に占領されたら、邪魔になる。
そうこうしてるウチに、実習も後半になりました。
(99/05/14)
実習は、1ケ月です。
2週間が過ぎて、職場の雰囲気だけは、ナントナク、分かって来ました。
ところで、三回生の夏休み。
アルバイトで、設計図の清書をしたことがあります。
日新電機です。
フリーハンドで書かれた、ナニかの制御回路を、定規、コンパス等で、ちゃんとした図面に清書するのです。
電気工学科の学生なら、出来るハズと思われてたのでしょうねえ。
アルバイトは数々やりましたが、一番、気を使う仕事でした。
スケルトンとか、シーケンスとか、教わりながら、アシスタントのアシスタント。
それが一枚出来ると、アシスタントに見せてから、設計者の判子を頂き、主任さん、係長の承認印を貰いに回るのです。
大きな建物の、広いフロアーにヒトが沢山居ます。勿論、知らんヒトばっかり。
主任は10〜20名くらいの単位を統括して、係長は、それを10個くらいを統括して、そのフロアーに一人だったはずです。
課長、部長など、何処に居てるのか、知りませんでした。
会社で、課長ともなると、凄いんやなあと思ったものです。
さて、実習先の、東洋電具は、建物が幾つかに分かれてました。
コンクリートの建家もありましたが、私は、二階建てのプレハブです。
総勢で、20名くらい。
そこに、入社試験で、面接されたヒトも居ます。抵抗器製造部の部長やったのです。
実習生、いうても、アルバイトみたいなヤツの、目の前に部長が居てる。
課長も、その部屋に、二人も居ます。係長は、一人。主任が二人。ヘンなバランス。
もっとも、抵抗器製造部としては、工程等を含めますと、200名くらいにはなりました。
それにしても、大会社とはエライ違いやなあ。これが、実感です。
先輩諸兄のおハナシでは、その部長は、余所の会社から、引き抜かれたそうで、QCの専門家とのことです。
QCといっても、技術面ではナク、標準化のホウです。これを、全社的に取り組んでいるとか。
この標準化によって、技術の継承を、勘と経験の世界から脱皮させるものとして、注目されてたようで、その手の専門家と称する人材は、引く手、数多だとか。
その標準書の管理だけで、専属のヒトも居ましたが、ヒマそうでした。
肝心の標準書が、構築途上。出て来ないことには、することがナイ。
私にしてみたら、「QC」も、「標準化」も、ナンのことやら分かりません。
QCの一部である統計的手法は、産学協同として、現在では、大学の講義にも、組み込まれてますが、当時は、ありませんでした。
部長は、その部屋の中心にどっしりと座ってます。
ナニか、書類を読んで、判子を押してます。ヒマそうやなあ。程度の感覚です。
QCのボスは、私を自動車で、工場見学に拉致した課長です。
このカタの行動は、常識では説明出来ません。会社員であるにも関わらず、会社には午後からのご出勤。所謂、重役出勤です。
実習生の身分では、社内の打ち合わせには無縁ですが、先輩諸兄は、大声で、ぼやいてるのです。
打ち合わせの時間に、肝心の主催者が出勤するかどうか、たいてい、しないからです。
にも関わらず、ご当人は、出勤するなり、
「さあ、やろか。オイ、時間やで。過ぎてるで。」
「ナニしてたんです。」
「本屋に行ってたんや。」
「そんなもん、出勤マエに行くことはナイでしょう。」
「ナニ云うてる。
丸善には専門書が沢山あるし、今日の資料も準備せんとアカンやないか。
朝のホウが頭も活性化されて、勉強も進む。」
私には無関係ですが、こんなことが、度々あるのです。
エライはずの部長さんも、特に、小言を云うワケでもありませんでした。ほったらかしです。
笑い話みたいな、この会話は、ご当人も、先輩諸兄も、真顔です。
世の中には、ヘンなヒトが居るのやなあ。
大学の先輩ではあるけれど、こんな変人の部署はやっぱりイヤです。製造を希望して良かったなあ。
実習中にも、再度、配属先の希望をアンケートされて、迷わず、「製造」としました。
イヤ、しかし、そんなアンケートは無視されて、この、ヘンなオッサンの部署になってしもたのですがねえ。
最悪です。しかも、全員一致で決まったとか。ウソでしょう。
そして、一緒に拉致した、山内先輩からハナシがありました。
「シバタクン。ボチボチ、まとめを開始せんとアカンなあ。」
まとめは、ナニをどうするのか、それをするための、概要説明が、ようやくあったのです。
私がやってたことは、京都(本社)で製造していた製品と、協力会社(3工場です)のサンプルの比較試験と称するものでした。
工場の製品が、本社と比較して、品質がどうかを調査してたのです。
(99/05/21)
山内先輩(主任)から、まとめをヤレとの指示を受けました。
そのとき、私の実習は、ナンの目的で、やってるのかを教えてもらいました。
工場で製造した製品品質の評価です。
まとめは、どんな具合にするのか。
「抵抗値のなあ、ヘンドウを、計算してなあ、グラフ化するのや。」
ちなみに、統計的手法は、知りませんからねえ。
抵抗値のヘンドウて、ナンやろ。
「あんなあ、ヘンドウは変動や。変化や。どう説明したらエエのやろなあ。
そやなあ、この本を貸したるし、マズ、読んでくれや。」
そして、「実験計画法」なる分厚い本、上下2巻と、もう一冊、「初等品質管理テキスト」なる本を手渡されました。頂いたのではありません。借りただけです。
その本を読んで、分かったことは、「実験計画法」は、まとめには関係ナイということ。
試験はしたけど、実験はしてない。ナンで、貸してくれたんかなあ。
勉強しといたホウがエエやろ。とのことでした。
「初等品質管理テキスト」は、新入社員の集合教育に使われるもので、正規分布とか、平均値、標準偏差、検定の方法等がありました。
そして、具体的な指導です。
特性のグラフ化と、検定をしなさい。
抵抗器の特性。といっても、測定したのは、抵抗値だけです。
試験前と試験後の値をグラフ化するのと、その差がアルと云えるか、云えないか、検定(判定)するのです。
試験項目は何種類かあって、各々、50個を試験しました。
それの平均値と標準偏差を計算するだけ。数式は、簡単なものです。
ハナシはそれだけですが、昭和43年のことです。
電卓はナイ。
あるのは、所謂、電気計算機。
電池駆動ではナイという意味です。電源は、家庭用、AC100V。
それも、単に、四則計算程度の計算機で、馬鹿デカイ。
ワープロ程度の大きさで、値段も十万程度だったハズです。
それが、現在、どの程度の価値か。当時の大卒初任給が、3.35万円です。
給料の3ケ月分に相当します。ソノウエ、使い難い。
キーボードは付いてますが、数値を押しても、ナカナカ表示してくれない。
まず、キーボードの接触状態が悪いので、コツがあるのです。
ネオン管も、どこか、壊れてます。
ですから、試験担当の女の子が二人掛かりで使ってます。
一人は数値を読み上げて、入力のコツを知ったヒトが入力。
入力した数値が正確に表示されるかどうか、読み上げたヒトは確認する。それほどに信頼性がナイのです。
計算機として、あったのは、巨大な電子計算機。
こんなものは、温度コントロールが出来る部屋一室に、ドカンとあって、平均値程度の計算なんかに使わせてくれるもんですか。
そもそも、電算機室と申しまして、計算機一台が魔人のように居座ってます。
プログラミングを理解するプロが何人も居て、IBMの技術者が、常時、お守りのため、張り付いてます。
それ程に、トラブルばっかりで、スグ故障。イツになったら、使えるのか、アテになんか出来ますかいな。
そしたら、どんな方法で計算するか。
平均値程度なら、ソロバンが一番早い。
標準偏差ナラ、筆算です。
私は、一応、ソロバンも出来ます。
小学校で使こてたソロバンを持って出社です。
(99/05/22)
ハイテクとソロバン。
差があるようですけど、ハイテクは、そんなもんです。
単なる道具です。
ところで、実習では、評価試験と統計的手法の真似事をやりました。
この、「試験」について説明します。
かと云って、詳細にやったら、分厚い本になってしましますので、ホンの概略だけです。
まず、試験は、ナンのためによるのか。
製品が、設計通り、正常に動作するかどうかを確認するためです。
例えば、自動車はハイテクの結集です。
そやけど、基本は、エンジンが動いて、まともに走るかどうかです。
そんなコト、当たり前です。当たり前のことをするのが試験です。
ところで、「当たり前」とは、ナニかです。
テレビもハイテクの集合ですけど、画像が表示され、音声が出るかどうか。
こんな、テレビが映るかどうかくらい、スグ、分かります。
値段も高いのやし、全製品を確認して貰わんと、困ります。
これは、出荷検査です。
テレビやったら、保証書があって、それには、検査員の押印があります。
その検査員が検査しました。会社として、保証します。という意味で、「試験」とは違います。
「試験」というのは、クルマの場合、実際に走っての、耐久テストとか、ぶっつけても安全か。
これのことです。
「当たり前」のことですが、クルマも、テレビも、色んな環境で、色んな使い方をされます。
北海道の、一番寒い時期でも、沖縄の、一番暑い時期でも、オーバーヒートになったらアカンし、バッテリーもあがらんと、走ることが出来るかどうか。これが「試験」です。
自動車やったら、寒冷地仕様とか、あるようですけど、沖縄から、北海道にドライブして、クルマが故障したのでは、困る。
高温多湿の場所で、テレビが映るかどうか。映っても、故障するまで、どれくらい持つか。
こんなことをやるのが、「試験」です。
海に近い地域やったら、塩風で腐食が進みます。どこまで腐食されても大丈夫か、こんなこともやるハズです。
そのまま、海辺に放置するようなアホなことはしません。そんな環境を作るのです。
むしろ、もっと過酷に、塩水を吹き付けるとか、それに近い状態にして、動作するかどうかを試験するのです。
この耐久テストとか、環境(温度、湿度)も、クルマの場合、実際に、走らしたり、北海道、沖縄で確認するのも結構ですけど、もっと暑い、もっと寒い地域もあるし、色んな環境を設定して、試験をするハズです。
別段、南極でも大丈夫かくらい、クルマを持って行かんでも、再現出来ることです。
出来てから、南極でも大丈夫と宣伝したらエエことです。
私は、クルマの会社がどんな方法で試験をしてるのか知りませんけど、走行テストは、実験コースがあって、余所からスパイされんように、覆面を被せてやってるようです。
高速で回転するベルトコンベア上を走らせるとかしたら、室内でも、オナジことが出来るハズやのにねえ。実際には、それも、やってるのやないかと思います。
環境にしても、大きな冷蔵庫とか、オーブンの中でやったら、再現出来ることです。
手軽に、短時間で、正確に、より沢山の台数を評価出来たら、素晴らしいことです。
この中で、一番重要なことは、短時間で評価すること。
それが出来たら、新型車なんか、早く、性能調査も、安全性も確認して、自信を持って、市場に発表することが出来ます。
つまり、「試験」は、出来る限り、極限に近づけた環境でヤルのです。
その環境が厳しくても耐えるのがヨイに決まってます。
低温は、より低温。高温は、より高温。湿度は、より高湿です。衝撃も、よりキツイ衝撃。
クルマやったら、より高速で、より長時間に耐えること。
そのマエにタイヤがやられてしまうかなあ。
こういう「寿命」は、殆どの場合、周囲の温度で加速されるのです。
それでです。「試験」は、「加速試験」が主力となります。
過酷な条件で、長く持ったら、それだけ、普通の条件なら、長く持つことになります。
そやけど、こんな、試験をされたクルマとか、テレビを売られたら困る。ボロボロになってますから。
試験にもイロイロあって、どんな試験でも、製品をボロボロにするワケではナイけど、そんな試験が多いのです。
ですから、試験をしたモノは廃棄。
試験は、クルマ、テレビだけでヤルのではなく、それに使われてる部品もオナジようにヤルのです。
赤道直下で、エンジンのソバに使われる部品やったら、エライことになりますからねえ。
そんな条件に耐える部品だけを使ってるともいえます。
つまり、クルマのデザインとか、エンジンの性能は、設計段階では、企業秘密ですけど、それを製品として、出すまでには、色んな試験をするハズで、それを、いかに早く、正確にやってしまうか。
実は、この試験のナカには、何処でもやってる試験と、その会社独自でやってるモノもあるハズです。
「試験」のナカに、ハイテクがあるようにも思います。
実習のトキは、マッタク、気が付きませんでした。
イヤ、経験者でも、それを分かってないヒトのほうが多いようです。
(99/05/25)
ハイテクとソロバン。
「試験」をしても、やるだけで、終わってしもたら、意味がナイ。
その結果をグラフとかに加工して、眼に見えるようにする。
こういう具合に、ナニかのデータを、集計してグラフ化したり、判断出来るようにすることを解析と云います。
これまた、解析手法について、云々し出したら、とんでもナイことになりますから、ヨコから眺めます。
すると、電卓の出現が解析技術の革命を起こした。そう見えます。
四則計算程度の電卓やったら、ソロバンとエエ勝負。
関数電卓が出現して、データを入力したら、平均値も、標準偏差も出るようになりました。
これは、ソロバンより、遙かに早い。筆算も楽になった。
電卓では、グラフ化は無理で、検定までは出来ませんけど、そんな新聞記事が出たり、ダレかが最新のを持ってたりしたら、早速、探しに行ったものです。
その延長線。と云うと、語弊がありますけど、電卓の計算から、パソコンになって、分析も、グラフ化も、好きなように加工出来るようになりました。
統計的手法は、算数の遊びですけど、その遊び感覚で、立派な資料がパソコンで出来てしまうのやから、凄いことです。
いうても、そんなソフトは6年くらいマエに出た程度です。
ソロバンでやったら、数日を要した処理が、グラフ化まで、数時間で出来てしまう。
とはいえ、まだまだ、関数電卓は必需品です。手軽やしねえ。
反面、ソロバン、筆算、電卓とかで、こんな計算をしてたら、途中で、結果は見えてしまう。
そうかというて、結果をまとめてしまわんと、やったことが無意味になる。記録して、保管しとくことも、重要なことです。
それも、パソコンやったら、データをフロッピーにでも、ナンにでも保管出来ますけど、紙に書いたデータとか資料、グラフは、ドンドン増えて、アトで探そうにも、タイヘンな作業になってしまいます。結局は、そのうち、廃棄されてしまう運命です。
マタ、解析が短時間で出来るようになったら、技術者は、早いことデータの結果を知ることが出来て、次のステップに進むことが出来ます。
つまり、道具もハイテクになって、全体がハイテクを加速させてると思います。
道具は、計算だけではありません。
パソコンのメモリーの容量が異常な勢いで、増えてます。
これは、メモリーの開発関係者の努力です。
その関係には、道具(設備、冶工具等)の進歩があって出来てることです。
それが無かったら、理論、理屈だけでは手も足も出ません。
微細加工が出来たら、メモリー容量がアップ出来ることくらい、ダレでも分かってます。
むしろ、新しいアイデアよりも、それを可能にする道具の進歩のホウが影響が大きい。
試験もオナジです。
試験装置も、ドンドン改善されて、精度がヨクなりました。
試験する装置。
温度にしても、一定で無かったらアカンのが、軽く、±20度の範囲で、そのうえ、恒温槽の奥、中程、手前、左右でも差があった。そんなモンと思てましたけど、最近では、±1度の制御が出来るようになりました。
無関係のヒトやったら、それがどうしたんやな。程度のコトですけど、それだけ、試験の信頼性が良くなったということです。
それでどうした。
そう云われたら、試験の精度が低いと間違った結果が出て、判断も間違います。
(99/05/26)
さて、実習途中から、まとめに入ったのはエエけど、どんな具合にまとめるのか。
山内先輩に尋ねますと、お好きなように。とのこと。
試験の結果は、試験のマエと、アトで測定した抵抗値の変動をグラフ化するのです。
ここで、抵抗器のことです。
色んな種類がありますが、実習で使ったのは、炭素皮膜固定抵抗器と称するものです。
どんなモンか、簡単に説明しますと、磁器棒(電柱の碍子に使用される材料で、瀬戸物のことです)に、炭素を着けた(着炭)ものが抵抗の本体です。
それに、リード線(電極)をくっつけて、所定の抵抗値に調整(トリミング)したうえで、炭素の皮膜を保護するため、塗料を塗る(塗装)のです。
抵抗器の大きさもイロイロあって、1/4W(0.25ワット)、1/8W(0.125ワット)とか、Wattage(電力)で区別してました。ワット数が大きいほど形状も大きくなります。
当時の主力は、1/4Wで、私が実習に使ったのは、これです。
次に、抵抗値ですけど、これは、JIS規格で決まってます。
概略としては、1〜10までを対数で6等分あるいは12とか、24等分したものが標準です。
簡単な例として、6等分したものなら、1、1.5、2.2、3.3、4.7、6.8、10となります。
勿論、桁もイロイロありますし、単位も着けます。
低い抵抗値のものを低抵抗、高いものを高抵抗とか云ってます。
製造工程そのものは一緒ですが、低いものと、高いものでは、製造条件がチガウのです。
そのことは、実習生程度では知りませんでしたが、サンプルとしては、3種類の抵抗値を試験しました。
3種類というのは、低抵抗、中間程度、高抵抗です。
抵抗値の測定というのは、抵抗値そのものではなく、ネライの抵抗値(公称抵抗値)からのズレを「%」で表示させたものです。
例えば、公称抵抗値、100kΩのサンプルで、101kΩだった場合、1%です。99kΩなら、−1%です。
その「%」の平均値とか、標準偏差を計算して比較対照するのです。
そして、山内先輩に、お好きなように。
そんなこと云われて、しょうがないので、大学の実験レーポート様式でまとめをしました。
実際には、そんな工場間の比較試験をするのは初めてで、しかも、参考になるようなまとめはあまり無かったようです。
結果は、どうやったか。差は無かった。
そしたら、先輩は、ゼンブの抵抗値をプールしてまとめて欲しいと云いました。
この山内先輩は、こういうワケの分からない言葉を時々使います。
私にとって、プールというのは、水泳のプール。
素直に確認しますと、抵抗値を無視して、変動を工場間だけでまとめ直して、比較して欲しいとのことでした。
まあ、基礎データは計算してますし、難しいことではありません。
それでも、差はナシ。
「これからは、サンプルを要求するとき、評価試験をする云うて貰たらアカンなあ。
黙っとかんと、ムコウ(工場)がチェックして、エエヤツだけを出して来るのとチガウかなあ。」
こんな独り言を云われても、その背景も知りませんから、ナニを云うてるのかなあ。
そんなもんです。
アトから聞いたのですが、ある工場の製品で、クレームが多いらしい。
きっと、評価試験の結果も悪いハズやから、そのデータを突きつけて、その工場に文句を云うツモリだったそうです。
そやけど、差がナイものは仕方ナイ。
そんなこと云われても私の責任でもナイ。
とにかく、私の実習は、無事、終了しました。
(99/05/28)