実録ハイテク物語NO.3

実録ハイテクNO.1 実録ハイテクNO.2

目次

実録ハイテクNO.4

その3・磁器棒のハナシ

25.気泡対策(5) 実験大失敗

24.気泡対策(4) ワコー電器の初代QC責任者

23.気泡対策(3) イジワル工程長

22.気泡対策(2) ヒーター作成

21.気泡対策(1) メタノール、シンナー、アスベスト

20.高倍率化の目的

19.高倍率化での出来事(4)

18.高倍率化での出来事(3)

17.高倍率化での出来事(2)

16.高倍率化での出来事(1)

15.新製品の開発(2)

14.新製品の開発(1)

13.磁器棒内作(2)

12.磁器棒内作(1)

11.丸和の品質問題(3)

10.丸和の品質問題(2)

9.丸和の品質問題(1)

8.余談・サンプルの処分

7.酒井田柿右衛門

6.磁器棒品質改善(2)

5.磁器棒品質改善(1)

4.磁器棒製造工程

3.京都碍子(2)

2.京都碍子(1)

1.磁器棒品質改善

実録ハイテクNO.2


1.磁器棒の品質改善

さて、そうこうしてるウチに、わたしにも、正規の業務が入って来ました。
正規と云うのは職制を通じて指示された業務と云う意味で、内容は、まったく専門外のことでした。
私は、電気工学専攻ですが、炭素皮膜抵抗用の磁器棒の品質改善です。
磁器棒というのは、抵抗器の主材料。
とは云っても、窯業の世界ですから、どちらかというと化学に近い。オナジ窯業でも、碍子となれば、電気に無関係ではナイけど。ではあっても、瀬戸物は、まるで知りません。
種類としては、ムライト、フォルステライト、アルミナ。
現在では、アルミナが主力のハズはずですが、当時はムライトと称する材料でした。
理由は簡単で、アルミナ製は高価でした。アルミナの何処がヨイのかと云うと、強度です。折れ難い。絶縁性も高い。
金属皮膜は高価な抵抗器ですから、アルミナ製の磁器管を使ってました。
そのウエが、フォルステライトです。ムライトは一番安い材料です。
それでも、電子部品の材料に使うので、細かな特性が要求されます。
まず、低アルカリであること。アルカリ分は電子部品で一番嫌うモノです。理由は後日。
で、磁器棒のナニを品質改善するのかです。
金属皮膜は磁器管に金属を蒸着したのですが、炭素皮膜は、磁器棒に炭素をくっつけるのです。
半導体のウェハー製造工程でもオナジですが、石英管に磁器棒を入れて、高温にして、ベンゼンのガスを流すのです。高温状態ですから、炭素と水素に分解されてしまって、炭素が磁器棒の表面にくっつくのです。
ところが、磁器棒に巣があると高温では弾けてしまうのです。
それも、多少ならマシですが、多数になると、着炭状態がバラバラになります。
着炭工程で、弾けないと、強度が弱いのでアト工程で壊れて、設備や冶具が壊れることがあります。当然、作業性も悪くなる。
これも、工程で壊れればヨイのですが、壊れずに顧客に出てしまうのが一番困るのです。
つまり、クレーム対策であり、工程改善でもあります。
云うてもそんな説明もありませんでした。
とりあえず、着炭工程でどんな状況か勉強して来いとのことです。
それと、磁器棒製造会社で見て来いです。
着炭工程は会社内にありますが、磁器棒は山科の清水焼団地でした。
そうなんです。お茶碗とか、お皿とか、瀬戸物を造ってる、清水焼の本場でやってるのです。
まさしく、その本場に電子部品の材料を供給する会社があったのです。
(99/08/05)


2.京都碍子(1)

清水焼団地の奥。
京都碍子(仮称)と云う会社です。
その会社名の通り、磁器棒を製造するまでは、電柱に取り付ける碍子を造ってたのです。
実際、会社(工場)の敷地内にはその残骸が転がってましたけど、いつまで経っても整理されませんでした。
記念に取っておくのなら、それなりにしてるでしょうけど、欠けてたり、変形してたり、壊れたモンばっかりです。
処分するのが邪魔くさいだけで、社長のクルマが踏んで、バリバリと壊したりしてました。
社長は、当然、高級車で、車体の大きいワリに、ハンドルが軽いのよと自慢してました。新車のハズですが、ボディはスリキズだらけ、バンパーもヘコミだらけ。余り運転が上手とは云えません。
そして、この社長さんのことです。
当時、70歳くらい。現在、生きておられたとしても100歳そこそこですから、失礼ながら、他界されてるでしょう。
出身地が何処とは聞いてませんが、言葉のアクセントが京都ではありませんでした。もしかしたら、四国あたりかも知れません。
ここで云ってる社長さんは、このお爺さんではありません。
お爺さんには娘さんが居られ、こちらが実質的社長。つまり、女社長さんです。
当時の年齢は30歳過ぎくらいで、子供さんが二人。
このお爺さんのことを、社長は、お父さんと云い、ホカのヒトは社長と呼び、社長のことは名前で呼んでました。
多分、会長と社長でしょう。社員のミナサンが、それに慣れてないだけ。
社長から、お父さんと呼ばれる会長は、タマにしか顔を見せませんでした。
そんな、女社長ですから、社長の子供さんがトキドキ遊ぶに来て、事務所、工場内を走り回るのです。
ヨイように云えば、家庭的、悪く云えば、職場と家庭の混同。
ご主人は見たこともナイ。ハナシにも出て来ませんでした。噂では、離婚されたらしい。ナニかのトキ、会長が、アレは、勝ち気な子やからなあ。と、申してました。
従業員は総勢20名程度で、幹部として、課長さんが二人。
タマキ課長とイノウエ課長。
タマキ課長は技術者肌で、気むずかしいけど、質問すると、技術的なことをナンでも教えてくれました。
すると、女社長が怒るのです。
「タマキさん。そんなことまで云うたらアカン。」
「どっちみち、相手は素人でっせ。」
「そのうち、分かってしまうわよ。」
当事者のマエでこんな会話です。
社長はホンキでそう云うのですが、タマキ課長はそれを楽しんでるようにも見えました。
イノウエ課長はナニしてたのやろ。
営業やろか。トキドキ、昼食に連れてくれました。
(99/08/22)


3.京都碍子(2)

京都碍子に行くと、その二人の課長さんと女社長さんが対応してくれたのです。
事務所のすぐヨコに工程があるけど、ナカナカ、見せてもくれません。
当時、私にはその理由は分かりませんでしたが、どうしても、技術関係の人間は敬遠されるようです。それが、私みたいなド素人でもです。
マサカ、とは思いますが、技術的なことを盗まれるように思われてしまうのでしょう。それもあるし、いきなりは信用されナイのでしょう。
オナジ会社の購買担当のヒトは購買担当と云う肩書きだけで、技術的なことは無関係になってますから、最初から、工程を自由に出入りしてました。
そこに工程があって、敬遠されるのは、どんな具合にか。
まず、私にとっては、余所の会社ですから、勝手に入ることは出来ません。一般常識的に、先方が案内するとか云えば可能です。
それなら、見せてくれと云えばどうなるか。
イマ、工程が止まってるしなあ。とか、散らかしてるのでねえ。とか、やんわり、拒否されてしまうのです。
ですから、何回も足を運んで、親しくなってしまう。そしたら、そのウチ、根負けして、見せてくれるハズです。
ただ、釜と云うか、炉は自慢してました。初回の訪問で、見せてもらいました。
窯業界には窯元と云う言葉があります。よって、この釜が看板です。
京都碍子は電気炉で、当時としては最新鋭機です。
事程左様に、この世界は、釜そのものは公開され、自慢もされますが、原料となる土は門外不出。その一門の秘伝とも云えます。
テレビ等で、高名な陶芸家や芸能人が轆轤を使って、造ってる光景が放映されますけど、あれは創造の世界であって、ド素人の芸能人でもナニか形には出来ます。
実際には、その材料の土が重要です。
材料の土まで、陶芸家の先生自らが選定してるのです。とか、ナレーターが云うてますが、当たり前のことです。土は、釜以上の生命線。
そして、焼き方です。
釜が幾ら立派でも、温度、時間があります。それも、単純に何度何時間ではナク、温度プロファイルと称するものがあって、徐々に上げ、徐々に下げる。その徐々が、キッチリ決まってるのです。それが狂うとモノにならない。
当然ですが、釜に入れる容量によっても違って来ますから、京都碍子でも、それなりの経験者が操作してるのです。それがタマキ課長です。
もっとも、それを標準化(数値化)してしもたら、ダレにでも出来る作業になります。それを云うと怒られました。
「何十年もの経験が要るのや。」
云うても、その炉を導入して、半年とかやのにねえ。マエの釜やったら分かりますけど。
マタ、材料として、朝鮮カオリンがどうのこうの。それと、何処かの土と水をどれだけか混ぜる。
それを何日か寝かせて、材料の土とする。
その朝鮮カオリンとやらも、何処のか、何処のナニの土をどれだけ混ぜるのか。水はどれだけで、何日寝かせるのか。これは機密事項です。
ただ、何回も足を運んでいるウチに、そのハナシの内容から、寝かすことが重要であることは知りました。
寝かせるとはナンのことか。
マサに寝かせるのです。冷暗所で、水が発散しない状態で放置しておくのです。単なる保管ではありません。
寝かせることで、水が土に程良く混ぜるのです。これをしないと、場所によって水の混合状態がバラバラになる。
そもそも、水は土に混ざりにくいのです。水の含有量がバラバラの状態で形にしても、焼くと、大きさに差が出来てしまったりするのです。
それだけではなく、割れやすかったり、ヒビが入る原因にもなるのです。
そんなお茶碗やったら、焼き方も、材料の土も適当にしてたことになります。
電子部品の材料の場合、寸法のバラツキは困るので、寝かせることは重要な品質特性に影響します。
(99/08/23)


4.磁器棒製造工程

京都碍子で、磁器棒製造工程を見せて貰たのは、約一ヶ月してからです。
その間に、ハナシを聞いたり、磁器棒そのものは知ってますから、概略のことは想定してました。
その京都碍子が磁器棒以外にナニを造ってるのかと云うと、ナニもありません。そしたら、当時の東洋電具以外にも材料を納入してたのかと云うと、それもありません。
それで、一ヶ月も見せてくれなかったのは、この窯業は秘密主義の世界だからです。
見て、どうやったのか。
そんな、ビックリするような工程ではありません。
簡単に説明しますと、まず、ベルトコンベアが数台並んでいて、そのコンベアに作業員が付いてるのです。
まず、ノズルから原料の土。と云うか、粘土を出す。ノズルから出て来るのですから、土がウドン状で出て来ます。それを、50cmくらいの長さに切断します。切断されたものは青い線香のようなものです。
実は、磁器棒、そのものは、白色ですが、焼くマエは線香の色みたいに、青っぽいので、冗談抜きに、先方も、線香と称してました。
これも、工程に入るマエから見てましたから、違和感はありませんでした。
それを、コンベア上に流して、所定の寸法に切断します。ここでの所定の寸法とは、磁器棒としての寸法です。但し、両端は廃棄。
何故、両端を廃棄するのかと云うと、最初に切断されたウドン状の長さが一定ではナイので、両端は寸法不良になるからです。
ツギに、それを軽く乾かします。そのままの状態では水分が多過ぎて、焼きアゲルのに時間が掛かり過ぎるからです。方法は、単に熱風で乾燥させるだけ。
それを陶器製のバットに入れて、焼成する。焼成とは、炉に入れて陶磁器にすることを云います。
陶磁器になったものをミルします。ミルとは、コンクリートのミキサーみたいなボンベのナカに入れて、ガラガラ回すことです。
ただ、回すのではナク、水と、金剛砂を混ぜます。
ナンで、そんなことをするのかと云いますと、沢山の目的があります。
まず、焼成すると表面にアルカリ物質が浮遊してしまいます。アルカリ物質は電子部品の大敵ですから、それを除去するのです。
水と、金剛砂を混ぜることで、表面を早く削ることが出来る。金剛砂とは、研磨材のことです。
ツギに、磁器棒の角を取ること。
説明のとおり、単純にウドン状にした粘土を切断して、焼成するだけのことですから、切断面が角張ってます。角張った状態では、抵抗器に組み立てるときに困るのです。
この説明はややこしいので止めときます。
同じく、磁器棒の直径を調整することです。焼成で出来上がったモノの直径は、粘土の粘度、ノズルの口径、焼成条件、等々、色んな条件下で一定にはなりません。
それを、このミルで、決められた直径に調整するのです。
概略はそんなことですが、ここで、一口知識です。
粘度を焼成すると、約20%程度、小さくなります。これを収縮と称してます。
焼成で収縮してしまうので、そのマエの線香は、20%程度、大きくしてるのです。
(99/08/28)


5.磁器棒品質改善(1)

百聞は一見に如かず。
概略のことは想定してましたが、工程を見て、色んな疑問が氷解しました。
磁器棒の品質問題は巣だけではナイのです。カケ、ワレ、表面の突起、寸法不良、混入、等々。
不良現物は、イヤと云うホド、何回も見てますから、工程の何処で発生するのか、分かりました。
カケ、ワレは、ミル工程。これは、最初っから見せて貰って、分かってました。
ですから、一番に対策出来ました。勿論、ド素人で、ヨソの会社の設備をドウコウしたワケでもありません。
ミルの回転速度に影響するのか、処理量か、調査依頼して、回転速度に関係してることが分かったので、最適条件を求めて標準化しただけです。
表面の突起は、コンベアに残留した粘土の破片が線香(焼成マエ、ウドン状粘土)に付着したもので、これは、コンベアのベルトを定期的に清掃することにしました。
こんな表現をしたら、大層ですけど、コンプレッサーで吹き飛ばすだけです。吹き飛ばした破片が、又、ホカのコンベアに落下する可能性があるので、バキュームを追加しました。
寸法不良は、線香の切断された端が除去されずに、混入したもので、これは、切断長さが短かかったので、少し長くしました。
混入は、乾燥方法。と云うか、どの品種のものも同じバットに入れてたの、品種毎に専用バットにしただけです。
最大の問題、巣は切断工程。見れば、スグに分かりました。相手が粘土ですから、ウエから押さえてたのです。それが、金属製。クッションを持たせるために、ゴム製に変更。
正直云って、この程度の不良なら、工程を毎日視てるヒトなら分かりそうなモンですが、そうは行きません。
毎日視てるので、慣れてしまってるのです。多分ですけど。
それと、不良は不良とは認識していても、それによって、アト工程がどれだけ困ってるのかを知らないのです。
ソラ、造ってるだけで、実際に使ってナイのですから、当然のことです。この不良がこんな具合に困るとフィード・バックして、説明なり、しないとダメです。
私が工程を見るまで、してたのは、そのことです。
工程で検出された不良品を集めて、見せたり、それが、どの程度の不良率か、それで、どんな問題になるのか。
使用者側から云えば、材料は欲しい。その対価は支払う。しかし、不良は欲しくない。
だからと云って、それを全て保管し、返品し、代替品を頂くことも出来ません。その手間暇のホウが掛かるからです。
それと、値段にもよります。一個、何十円とか、何千円ならベツですけど、10銭とかであると、返品云々より、全体的な品質レベルを向上させてもらうことに重点が置かれます。
先方に、そのスタッフが居れば、そのヒトを通じてやればヨイのですけど、規模の小さい工場には居ませんし、そういう規模では生産技術とか、QC手法とか、そういう概念がまだ一般的でもありませんでした。造れば造っただけ、売れる時代でもありました。
いずれにしても、不良が発生したら、アト工程に行くホドその処置が大変です。
カケ、ワレ、寸法不良、混入は製品にはなりませんけど、中途半端な巣とか表面の突起は製品になることがあります。
特に、巣は、抵抗体としての磁器棒の強度が低下しますから、抵抗器を組み込む工程で破断したりすることがあるのです。
実際、そんなクレームも多発してました。
(99/09/06)


6.磁器棒品質改善(2)

磁器棒の品質対策。
説明を簡単にしてしまいましたけど、実際、そんな難しいことではありませんでした。
工程そのものは単純ですし、その気になって観察したら、分かることです。
こんな表現をすると、工場のヒトはその気になってナイようですが、それはチガイます。
工場としては、原料の管理、焼成に細心の注意を払ってます。
この分野でミスしたら、全滅です。いわば、焼き物を造る生命線。
コンベアの異物、切断のバランス、ミルの条件など、それと比較したら、ナンでもナイことです。
ただ、磁器棒を材料として使用するガワからは、原料、焼成の問題のトキはモノになりませんから、入荷されることもナイのです。
これは、生産計画がひっくり返りますし、抵抗器の出荷先にまで迷惑が掛かることがありますから、困りますけど。
私は、主として、それ以外の部分を具体的に対策依頼し、実際の対策は工場がし、その結果を私が調査し、評価したワケです。
これ以外のコトもありましたし、そこからサキの対策もありましたが、省略します。
ところで、こんな簡単なことをナゼ工場で解決出来なかったのか。
そんな疑問がアルかも知れません。
マエにも説明しましたが、それ以外の工程での主要業務は、設備の調子がドウコウ、ナニをどれだけ造るかとか、生産管理、ヒトの管理、等々、そっちです。
分かってはいても、ナカナカ、手が付けられないのが実状と思います。
そして、実験、調査レポートを作成し、全工程の技術標準、作業標準そして、磁器棒の材料規格を残したワケです。
30年マエのことですが、標準、規格だけは、その残骸がナンらかの形で残ってるでしょう。
ナンらかの形と云うのは、当時は手書きですし、パソコンの時代になって、原案が残るハズはありませんが、磁器棒の管理ポイント程度は残ってるハズです。
実験、調査レポートはナニもナイはずです。
全て、会社に残してますし、30年マエのことで、とっくのムカシに廃棄処分されてるでしょう。
材料規格以外の標準類は工場で管理するべきもので、私が作成したモノは、京都碍子に、原案として、以降の管理を託し、ローム(当時、東洋電具)には、原紙を資料として保管しました。
いわば、京都碍子(資本関係のナイ、ベツ会社です)で作成するべきものを代行したようなものですが、私に限らず、当時の技術スタッフは、そこまで踏み込んでたのです。
そして、この資料は、その直後、役に立ちました。
抵抗器はドンドン増産になって、清水焼き団地の京都碍子から入る磁器棒だけでは不足したのです。
それで、ドンと離れて、九州の有田に飛びました。そこに、共立製磁(仮名)と云う会社があって、磁器棒の製造打診をしたのです。
そこでの主力は、ヤヤ電力の高い抵抗器に使用する磁器棒を製造していたのですが、我々が製造しているサイズの磁器棒の製造が可能かどうかでした。
勿論、打診したのは購買担当のホウです。
その担当者が、私にも同行しろと要請されたので、産まれて、初めて、飛行機に乗ることが出来ました。
私は、まだ一年生で、これをやり出して、半年程度ですが、それでも、磁器棒についての技術担当と云うことになっていたのです。
それで、マチガイではありませんけど。
(99/09/11)


7.酒井田柿右衛門

有田焼きの有田へ行くため、朝5時から起きて、伊丹空港です。
二条城の向かいにある二条ホテルに空港行きのバスがあるので、そこへ向かいました。
家から、徒歩15分程度ですが、あたりはまだ暗かった。
行き先は有田の共立製磁(仮称)と云う会社。そこへ、どういう経路で行くのか、ナニも知りません。
兎に角、空港ロービーで待ち合わせすることになってたのですが、そのマエに、京都駅前のバス停から、購買担当のヒトが乗り込みました。
共立製磁に着いて、私は、仕様書とか、要求品質をマトメたものを資料として先方に伝えました。
それが終わると、工程をホンの僅かですが、見せて貰いました。僅かとは、どのクライかと云うと、10分程度です。
磁器棒を造る工程そのものが、単純ではありますが、案内者はサッサと、エライ早足で進むのです。いかにも、ジックリは見てくれるなと云う感じ。
それでも、京都碍子で工程を知ってますから、どの程度のレベルかは分かりました。
京都碍子には失礼ですが、ここは優秀です。参考になることが沢山見受けられました。
ナカでも、ノズルから出て来るウドン状の粘土の長さが一定なのです。
一定と云うことは、切れ端の長さがバラバラになる確率が少ない。廃棄するムダも少なくなるハズで、生産性がヨイことになります。
その対応して頂いたヒトは、私より少し年輩で、社長の息子さんとのことでした。早いハナシが次期社長。
早稲田大学の機械工学出身とのことで、流石に、設備の状況とか、細々と整備され、工夫されていることが伝わって来ます。
私にも、九州出身の友人が沢山居ます。揃いも揃って、称するところの九州男児。
この息子さんも、体格、風貌からして、九州男児。
このヒトが磁器棒の責任者として、購買(価格、量)も、品質問題も窓口になってくれるとのことで、安心しました。
イヤ、ナンとなく気が合いそうな気がしたのです。見た目は取っつきにくいのですが、いかにも、人情味があって、旧知のような親しみを覚えました。
さて、日帰りのツモリで早朝の出発やったので、ハナシが終わって、工場を見せて貰たら、退散する予定です。
ところが、その次期社長が、有田に来たのやから、せっかくやし、柿右衛門でも見たらどうですかと提案したのです。
そう云えば、有田ですから、柿右衛門となります。その柿右衛門は、共立製磁から車で数分程度らしい。
急遽、柿右衛門を見ることになりました。電話一本の見学要請ですから、お互いに、窯元としてのお付き合いがあるのでしょう。
ところで、酒井田柿右衛門が高名な陶芸家であることは知ってましたが、過去のヒトであるとの認識です。しかも、その名称を知ってるだけで、どんなものか、見たことありません。
そう云うと、次期社長がこんなハナシをしてくれました。
当時、柿右衛門としては、14代目が活動されていること。
柿右衛門が開発した技法は朱色で、それこそ、柿のような朱色。そこから柿右衛門になったのではないか。分かりませんよ。これは自説ではあるけど、当たらずとも遠からず。とのこと。
それと、朱色に対して、藍色もあって、藍柿右衛門と称されるのもアルとのことでした。
それよりナニより、濁り手と云って、お米のとぎ汁みたいな乳白色の磁器が素晴らしい。それを土台にするから、朱、藍が引き立つのである。とは云っても、当時としては、焼き上げたあとで、鮮やかな朱色を出すのは難かしかった。その技法と云うか、染料を開発した柿右衛門は、発明家とも云える。
等々、そんなハナシを聞きました。
この共立製磁が有田の何処であったか、行ったのはそれ一回だけですから覚えてません。
次期社長はそれから、スグに社長になって、東洋電具には何回か来てました。価格の問題ばっかりのようでした。
値段をねえ、下げろと云われてねえ。困ります。そんなハナシをしてました。
品質問題で、文句を云いに行ったこともナイし、呼びつけたこともナイ。
極めて、優秀やったのです。
(99/09/21)


8.余談・サンプルの処分

有田の共立製磁は、既にホカの抵抗器の製造会社と取引してました。
私の眼からは、技術力は京都碍子よりもウエ。
品質のトラブルも無かったし、その最初の打ち合わせ一回しか行ってません。
マッタクのベツ会社の場合、先方からの要請があるとか、重要な品質問題が発生したとか、そういう背景がナイと訪問することはありませんでした。
そして、共立製磁の件は、実際に磁器棒のサンプルを貰て、それを完成品、つまり、抵抗器に加工して、評価することです。
評価とは、私が実習生のトキやった、評価試験が主です。
一項目の試験で、サンプルは50個程度。10項目の試験をしても、500個あったら、ヨイのですけど、工程への投入は、そんな数ではアカンのです。
決められたロット・サイズがあって、最低でも数千個とか、ある程度の数量にします。
結果的には、サンプルを作成して、評価試験でも問題ナシで、採用されました。
さて、評価用のサンプルとして、何種類もの抵抗器にしたけど、残ったサンプルの処置をどうしたものかです。
諸先輩に訊ねたら、そんなモン、オマエの好きなようにやったらエエやないか。
廃棄してしまうとか、自分で使うか、売りに行ったらどうやな。
アトから思えば、自分で使うとか、売りに出すのは冗談で云うたのやろうけど、当時の私はまともに受け取ったのです。
マンガみたいなハナシやけど、私の親父は電気屋さんやからなあ。それが冗談やっても、親父が使うことも出来るし、店に出して売りに出すことも可能です。
早速、持ち帰って、これ貰たで、云うて、店の商品として棚に飾りました。
もっとも、そこらの電気屋さんに抵抗器を買いに来るヒトはナイし、売れることも無かった。
親父も、電化器具の修繕とか販売が仕事でしたけど、部品を取り替えるような、高度な修繕するホドのこともしてナイのです。
遂に、一個も減ることなく、何処かにホカしましたけど。
余談ですけど、現在やったら、電気屋さんに修繕に出しても、そのままサービス・センターに送って、基板単位の交換になるけど、当時は殆どのことは電気屋さんがやってました。
又、それが出来んと、お店はやってられませんでした。
ラジオが鳴らへん。原因はリード線が外れてるし、半田付けでオシマイ。
テレビやったら、チューナー(回転式のチャンネル)が摩耗して、映りが悪い。これは、チューナーを交換。
蛍光灯は、トランスが焦げてるし、その交換とか、そんなモンです。
その交換部品を問屋さんに注文したのです。そのムカシ、親父の代理で、中川無線に部品を取りに行った記憶があります。
とは云うても、電気屋さんで、抵抗器とか、そんな個々の部品が破損してるのを見つけるのは難しいことです。
見つけても、タマタマやし、オナジ仕様の部品を取り揃えとくことは出来ませんでした。
ホントウは、焦げてる部品があったら、ソレて、分かりますけど。それがアカンだけやったらエエけど、それ以外の部品が影響してることもあるし、一度、故障したら、何回でも故障してしまうのはソレもあるかも知れません。
そして、故障原因不明で、結局、お客さんに謝って、メーカー(問屋さん)に出したりもしてました。
そしたら、更に、何週間も、下手したら、何ヶ月も掛かって、戻って来るのです。
メーカーでも、部品単体を修繕してたハズです。そやから云うて、現在、そのマネすることは不可能でしょう。
色んな機能が付加されてるし、部品も多種多様で、特に、チップ部品なんか、悪いことが分かっても、細か過ぎて、交換出来ません。
やっぱり、効率ヨク、修繕するのは、基板単位でやったホウが早いし、確実です。
(99/10/29)


9.丸和の品質問題(1)

九州の有田のつぎです。
愛知県瀬戸の丸和(当時から、社名が二度変わりました。丸和セラミックになって、現在の社名は、MARUWA。ここでは、当時の社名でやります。)でした。
まず、丸和からは、1〜2W(ワット)クラス用の磁器棒を購入してたのです。ワットとは、電力の意味ですけど、抵抗器の品種はワットで表示します。
数Wクラスと、それ以下では、大きさがチガイますけど、その分、強度も必要です。
そこで、強度のあるフォルステライトと云う材質の磁器棒を製造依頼してたのです。それ以下のワッテージのものは、ムライトと称する材質でした。
ムライトは一般的ですが、フォルステライトで製造してくれる会社は少なかった。ナニがどう違うのか、詳しいことは知りませんけど、材料がチガウと、焼成条件もチガウのと、少量生産やから、やりにくかったのでしょう。
言葉を換えると、その技術力があるから製造を引き受けたのです。
この数Wクラスの抵抗器は私が入社以前から製造してましたから、丸和との取引もあったのですけど、品質が悪かった。(クレグレも、現在のハナシではありません。)
丸和としては、主力製品でもナイし、当時の東洋電具としても、ホカに供給してくれる会社も無かった。
そんなことで、どちらかと云うと、お互いに、仕方ナク、つき合ってる状態です。
それは、会社としての事情であって、品質の問題はそんなことには無関係です。
ナンの問題があったのか。それは、着炭工程で、炭素が磁器棒表面にくっつかない。
つまり、抵抗値を出すための、炭素が磁器棒にくっつかないのです。工程では、着炭マエに、磁器棒の表面をフッ素でエッチングして、表面を荒らすのですけど、それでも、ダメでした。
原因は、磁器棒の表面状態が滑らか過ぎることにあって、目視では分かりませんけど、顕微鏡で見たら、分かります。
現在なら、ポラロイド・カメラか電子顕微鏡で映せばヨイのですけど、まだ、無かった。それで、表面状態をスケッチです。
その資料と、現物を持って、瀬戸へ行ったワケです。
実は、それなりに経験も重ねてますし、不良原因の概要は私なりに想定してました。
ミル工程でのミル条件が変わってるか、ノズルの径が細いため、初期状態での、磁器棒の径が小さく、ミルを短時間にしてる。との推定です。
ミルの原因の場合は、金剛砂(研磨剤)が少ないため、共擦り状態になって、表面が滑らかになってしまった。これは、先方での条件変更でしょう。例えば、コスト・ダウンのためとか。
ノズルの場合は、ノズルを規定以外のものを使ってる。これは、管理の問題とか、ノズルの加工ミス。
ではありますけど、こっちは、素人の立場でハナシをします。
実際問題として、会社に磁器棒製造工程があるわけでナシ。
それより、私の推定以外にも原因があるかも知れません。
勉強みたいなモンです。
(99/10/30)


10.丸和の品質問題(2)

瀬戸の丸和へは購買の磁器棒担当になった同期入社の朝山君と二人で行きました。
購買担当者が、変わったのです。
就業時間が終わってから、クルマでの出発。
本来なら、JR(当時、国鉄)で行くべきですけど、返品の磁器棒を運ぶためです。
ついでと云うことで、その途中、愛知県の何処かですけど、彼の実兄が管理されてるお寺に寄りました。彼はお寺さんの倅です。彼自身も多少は読経出来るらしい。
そのお寺で、夕食をご馳走になりました。宿泊までしたのかどうかは、定かでありません。
明くる日、丸和に訪問して、返品の件と、その対策について打ち合わせしました。
打ち合わせは、先方の営業責任者が応対されたのです。年齢は、30歳マエくらい。
そもそも、丸和は同族会社で、そのカタも、当時の社長も、主要なメンバーはオナジ苗字。
要するに、そのカタは社長のご子息。もしかしたら、そのヒトが、現社長になってる可能性がある。
それは、それとして、私は不具合の事実関係だけを説明したのです。
工程で着炭出来ない。その該当ロットを返品する。原因は、磁器棒表面が滑らか過ぎるようです。
丸和としては、表面が滑らか過ぎる原因として、ナニが考えられるのか。どのように解決するのか。その対策期限はイツか。イツから対策ロットが納入されるのか。そこまでのハナシです。
先方の回答は、工程条件はナニも変わってナイから、おそらく、原料のバラツキにあるのではナイか。
それは、おかしいなあ。原料のナニがどうなったら、そうなるのかなあ。
他意はナイのです。私の想定した答えではナイので、素直にそう思たのです。
そしたら、原料そのものと云うより、水分が多過ぎた可能性があるとのことでした。それなら、理屈は合致する。オナジ径でも、水分が多いと、出来上がりの径は小さくなる。
それでも、疑問がある。
ミルの時間が短くなってるハズです。そのマエに、原料の水分含有量の管理をしてるとしたら、どんな方法でやってるのかなあ。
水分の管理は、原料(粘土)を指で押さえるらしい。実は、京都碍子でもオナジです。
正確には、粘土表面を指で押さえて、穴を作るのですけど、その、付き具合と、粘土は板状になってるので、それを曲げて、曲げ具合、ワレ具合で判断するのです。
水分が少ないと、穴が深くなるし、簡単に曲がって、ワレ難い。これは、管理するヒトの感覚で判断してたのです。イマやったら、水分計とかで計量出来るやろうけど。
そして、更に、質問です。
それなら、水分管理されてるヒトの勘違いかなあ。原料の水分含有量は湿度にも影響されますしねえ。そやけど、ド素人やあるまいに、高温多湿とか、そんな場所に保管するハズがナイ。
そしたら、保管場所の温湿度管理まで、センとアカンことになりますけど、基準は決まってるやろうしねえ。おかしいなあ。
そやけど、先方がそう回答するから、そうなるだけのことで、私は、素直に質問してるだけです。
そうですねえ。オカシイですねえ。再度調べて、回答します。
結局、その場では回答を得られずでした。
これは、私には不満でした。訪問マエには状況を連絡してるのです。そしたら、ナニも調べてナイことになる。
対策まで、教えて欲しいて、云うてのになあ。それで、朝一番に訪問したのに。
しょうがないし、勉強のため、工程を見せて欲しいて頼んだけど、準備もしてないし、散らかしてもいるから、ダメやて。
ナニを云うてるのやろ。訪問のコトは云うてたのになあ。見るだけやし、散らかっててもカマヘンのやけどなあ。
その後も数回、訪問しましたが、見せて貰えず。
事程左様に、ガードの堅い会社ではありました。
(99/11/01)


11.丸和の品質問題(3)

丸和からの回答は、電話でした。
現在やったら、文書での回答が常識ですけど、当時は、そういうのは、相当にもまれてる会社とか、それなりの規模の会社で、それ以外は電話で済ましてました。
そういう場合は、それを、「接渉メモ」に記録して、関係者に報告です。
内容は予想どおり。ノズル内径の不適合。
納期の問題もあって、発注したノズルを検査せずに、使用とのこと。
対策としては、ノズルを返品して、修正する。次回、出荷分は大丈夫とのこと。
回答をそのまま信用するかどうかはベツ問題で、次回納入分がどうかは、こっちも表面状態を顕微鏡で確認してから工程投入するのです。
こういうことは、マーキングとか、して貰わんと、マチガイも起こる。
次回納入分云うても、先方に在庫があったりするしねえ。それが、連絡不十分で、納入されてしまうことがあるのです。
そやから、対策ロットと称するものは、それを明確にするために、ナンかのマーキングをするのが常道です。
こっちも、マーキングされてるかどうか、そして、マーキング品が間違いなく、対策品であるかどうかを確認するのです。
それでも、マチガイがある。
簡単なハナシが、マーキングは、「○」にすることになってるのに、「丸」やったり、「○」やったり、それでも、丸にマチガイはナイけど、あるべき場所に無かったり。
イヤ、そのトキのハナシではありません。そういうことがヨクあったと云うハナシです。一人でやるのとチガウし、お互い様やけど、やられたホウは、相手の管理レベルを疑ります。
そして、評価して、ダメやったら、アカン云うて、先方がやったと云う対策内容を現場で確認するのです。
幸い、顕微鏡では問題もナク、工程でも正常でした。
ところで、先方の回答を信用するかどうかのことですけど、所詮、こっちは工程をスミからスミまで知ってるワケでなし、理屈が納得出来ればヨシとしてました。これは、イマでもオナジと思います。
反対に、こっちも、顧客にマトモな回答をしない場合もあるからです。
下手にマトモ過ぎたら、イラン心配をさせてしまうこともあるしなあ。
まづは、ドンナ方法でも良いので、顧客に迷惑を掛けないこと。それが一番です。
人海戦術で選別してるかも知れません。こっちも、抵抗器の不良があったら、人海戦術で、やりますからねえ。不良品を手測定して、良品を出して、出荷したりして、納期を死守してたのです。
基本的には、不具合があったら、まず、先方に云う。そして、改善してもらう。それがお互いの技術向上に繋がる。
つまり、クレームは、進歩の基本でしょう。無視したり、対応出来ひんかったら、淘汰されてしまうのです。
問題によっては、ギブアップされたら、ホカの業者を捜さんとしょうがないしなあ。そのサキの顧客にも迷惑が掛かるし、必死ナンです。
それでも、問題の程度とか、内容によったら、おかしいなあと思うような回答でも、そうですかと納めてしまうこともあるのです。
それが繰り返して発生してたらベツ問題。
兎に角、問題を理解してもらって、いかなる手段であれ、対策が出来ればヨイのです。
言葉を換えたら、大から小まで、その解決の積み重ねが、結果的に技術の向上になってる。
小さな問題でさえ解決に難航してるようやったら、大きな問題に対応出来るハズがナイ。
つまり、問題解決能力がその会社の技術水準や。
(99/11/15)


12.磁器棒内作(1)

そうこうしてるウチに、抵抗器も増産に次ぐ増産で、次ぎから次ぎに、工場を新設しました。
佐賀県にサカエ電子、エンゼル電子を創設して、福岡には、アポロ電子が出来ました。
その当時、まだ、アメリカのシリコン・バレーとか、九州をシリコン・アイランドと表現することも無かったのです。実際、半導体は、まだまだ開発途上。九州の工場も、抵抗器の組立たしねえ。
結果的には、佐賀の二工場は第一次オイル・ショックで閉鎖。短命な工場でした。
第二次オイル・ショックでは最初に設立された、山口県にあった東邦電機と云う工場が封鎖されてます。
福岡のアポロ電子は抵抗器から出発して、その後、半導体も製造。
現在は上場企業になってます。いわば、シリコン・アイランドの先駆者です。
それはそれとして、ハナシも前後しますけど、抵抗器の主材料である、磁器棒の製造を内作することになりました。
内作と云う意味は自社グループ内で製造することを意味します。
抵抗器の組立については、会社としても充分な技術力を持ってますけど、磁器棒はナイのです。
オマエが居てるやないか。
そう云うて貰たら嬉しいけど、まだまだ、入社1年生や2年生。それで、オマエ一人でやってみいとか云われても、製造することは出来ません。
原料の粘土を触ったことがアル程度。
設備もイヤと云うホド見てはいるけど、操作したことはナイ。
そういう意味では、抵抗器の組立は実作業でやってるし、ヤレ云われてもナンとかなる。
技術力と云うのは、そんなことではないのです。
自社内で生産設備を組立て、稼働させ、要求される品質を実現出来ることです。
生産設備を組立てるのは、図面があって、部品を発注して、それを組み合わせて形にすることやけど、そのためには、機械、電気の専門家が要ります。目的さえ云うたら、設備を作ってくれる会社もあるけど、金額も高いし、使いこなすのもタイヘンです。そやけど、一号機はそういう手段で調達することもあるのです。二号機以降は自社開発とか。
いずれにしても、出来た設備の稼働は、ヒトさえ居たら、ナンとでもなる。そやけど、要求される品質を実現することは、一番、難しいのです。
ここで、品質を理解したモンと、機械、電気屋さんが協力して、設備とか、条件を調整して、使用に耐えるものにする。これが技術力です。ナニをどうしたら、どうなるのかです。
磁器棒の場合、私は要求品質は分かるけど、社内には、その製造設備を作れる専門家が居ません。図面もナイし、ナニもナイのです。
そやから、設備の手配とかは、内作することになった工場のヒトに任して、私は技術指導することになったのです。
その工場は、知多半島の常滑に出来ました。
どういう縁か云うたら、当時、会社には品質管理の有名な先生が指導されてたのですけど、そのヒトの紹介らしい。
磁器棒は窯業やし、そこも窯元で、陶器を造ってたのです。壺とか、お茶碗やけど、餅は餅屋で、製造設備のことはナンとかなるとのことでした。
私のホウは、まず、その会社の実習生に京都碍子の製造工程を見学して貰うこと。
そやけど、京都碍子はベツ会社やしねえ。説明するまでもなく、余所の会社の窯元関係者が見学したい云うたら、それが、ナニを意味するかくらい、分かります。
何回も女社長と交渉して、やっとのことで、見学が許可されました。
アトから聞いたハナシですけど、我が社をどうするつもりや云うて、購買にハナシがあったようです。
こっちにしても、工場を造って、設備を入れたところで、肝心の材料がナイと手も足も出ません。
その材料は、京都碍子から供給して頂く。一定量の発注は保証する。そういうコトになったらしい。
そやけど、その数年後、優秀な常滑のスタッフは自力で材料を開発してしまいました。
そのトキには、私は担当を外れてましたけど。
(99/12/04)


13.磁器棒内作(2)

知多半島の常滑。
実習生は二名。ウチ、一名は、品質管理の担当者で、もう一名は、製造責任者です。
品質管理の担当者には、関連資料を、ゼンブ、コピーして、手渡して、説明もして、教育しましたけど、一年後に退職しました。印象の少ないヒトで、どんな顔やったか、名前もすっかり忘れてしまいました。工場新設で採用されたヒトやから、愛社精神は欠落してました。
ナニを説明しても、そういう意味では素人ではありましたけど、それ以前に、分かってるのか、分からんのか、それも分かりません。はっきり云うて、不勉強で、不熱心。仕方がナイし、品質管理の初歩だけを繰り返し、教えたのです。
云うても、私も入社二年目の新入社員に毛が生えた程度。品質管理手法も勉強中やったけど、しょうがないなあ。教育は一任されてしもたるのやから。
むしろ、製造責任者のホウは、鮮明に記憶してます。
まず、名前がオモシロイ。渡辺次郎吉さん。赤ら顔で、気性が穏和なカタでした。
理解も早いし、ハナシも合いました。工程そのものは、実務でやったはるし、私が教えて欲しいことが多かったけど、理論的なことは私が詳しかったみたいでした。
実習云うても、二週間で、過去の品質問題とか、そんなことが主体でした。アトは、私が必要に応じて、工場へ行くことになった。
社長から、二週間に一回は来てくれ云われて、それは嬉しいことやけど、時間を作るのが大変でした。
その社長は、当時、40代。私にとっては、親ほどには歳を喰ってナイけど、ナンとなく、親父みたいな雰囲気でした。実際、似てたのです。
その常滑の磁器棒工場へは、会社のクルマで行ったのです。片道、約200km。
工場の立地場所が交通の便に悪かったこともあります。電車では、最寄りの駅にでも迎えに来てもらわんと、どうしょうもナイのです。タクシーもナイし、クルマでのホウが気楽やった。
そして、工場に接近したら、社長が、二階のベランダに居て、来てくれたかと、そんな感じで、満面を笑みで、くしゃくしゃにして、手を振って、くれてました。
そして、実際に、ナニがあったかと云うたら、聞いてたハナシ程の重要な問題はナカッタのです。
工場をこんなレイアウトにした。見てくれ。社員食堂も出来たで。
こんな、改善をしたいのや。エエと思うやろな。それで、ナニを確認したらエエのやろなあ。
従業員が、ナン名になった。紹介させてくれ。
そんな程度のハナシ。
そやから、私はハイハイ云うてお聞きしてるだけです。
そして、次郎吉さんも、その品質管理の担当者も集まって来て、イロイロ説明してくれますけど、内容はナニもナイ。
考えてみたら、まだ、実験稼働前の段階やったし、製品は作ってナイのでした。
そやのに、来いと云う、口実は、おかしな製品が出来たし、見に来てくれ。寸法がオカシイのや。焼成の温度はどうしたらエエのやろ。そんなハナシです。
勿論、愛知のコトバで、関西弁とは違いますけど。
私もオカシイなあとか思い乍らも、そう云われたら、詮索もせんと、知多まで、名神を走って行きましたがな。アア、シンド。
そやけど、嬉しいモンです。社長の笑顔を見たら、それは、ウソやと分かってもです。ウソやから、尚、嬉しかったけど。
そして、稼働し出した頃には、私はベツの業務に移動してました。
イヤ、磁器棒関係のハナシはまだ続きますけど。


14.新製品の開発(1)

知多半島の磁器棒工場のことはそれくらいにしときます。
さて、生産技術課長から、新製品の開発が発表された。
0.5ワットの小型抵抗器の開発。
小型と云うのは、寸法のこと。
現状、製造してる抵抗器の寸法はJISに決まってます。
その規格に準じて、何処のメーカーも製造してるのですけど、計算上は、もっと小さい寸法にすることが出来るのです。
いわば、電子部品は電流を流すと、熱が発生する。その熱をイカに吸収して、発散させてやるかです。そのためには、発熱部分を太く、短くしてやればヨイ。簡単には、ズンドウにしてやること。
しかも、顧客から、小型化が要求されてました。軽薄短小傾向が強まって来たのです。
そのホウが、機能を低下させることなく、部品の集積密度をアゲルことが出来て、完成品としての大きさも小さく出来る。勿論、抵抗器だけではナシに、あらゆる部品に要求されてたコトです。
単純に、抵抗器を太おする云うたら、大きなるみたいやけど、従来のサイズの1/4以下で、その容量(ワッテージ)を確保出来てます。
その代償もあって、その分、高抵抗値を出すのが難いなる。抵抗値は、長さに比例、幅に反比例するし、初抵抗値が低くなる。つまり、高抵抗を製造しにくい。
それは、ベツとして、命名は、R50プロジェクト。
私の役目は、それ用の磁器棒を製造することで、兎に角、試作用のサンプルの調達です。
その他、各部品の担当も決まってますし、早速、試作ですけど、寸法は、さっきのとおり、計算で出てるし、そのとおりにやったらエエのや。
まずは、その寸法の磁器棒を作ってくれと、磁器棒メーカーに頼んだらヨイのですけど、これがナカナカ、タイヘンやった。
原料をノズルに通して、ネライの寸法の線香を出すのは簡単。ノズルがあったらエエ。
それを、所定の寸法に切断するのやけど、直径が太おて、長さが短いために、つぶれたり、割れたりしてしまう。これが多いと、内部に素が出来る確率が高おなるのやけど、それ以前に、モノにならへんのです。
初っぱなから、問題発生。これを、どうやって解決したかです。
切断用の歯の回転数を上げました。こんなこと、機械屋はんやったら常識やろけど、私は電気屋やし、聞き回ったのです。
これを突破して、マダマダ、問題はあったけど、細々したコトは覚えてナイ。
次ぎの大きな問題は、ミル条件でした。
どういうことかと云うと、ネライの寸法の磁器棒にはなったけど、組立が出来ません。
原因は、角が角張ってたのです。ある程度のR(アール;丸み)を持たさんと、電極を挿入出来ないのです。
ところが、その規定がナカッタ。ホカのタイプのにも、規定してナイ。
つまり、ズンドウにしたことでの問題なワケです。正確には、この寸法近辺では考慮するべき項目になるのです。
理由は、そのアトも、R33(0.33ワットの抵抗器)、R25(0.25ワットの抵抗器)等々、次々にこの系統の新製品をシリーズ化するために開発したのですけど、R(アール)の問題が出たのは、このR50だけでした。
これを、どうやって解決したかです。
(00/02/19)


15.新製品の開発(2)

組立工程での問題は歩留まりに影響したり、顧客クレームになったりする。
開発段階の問題は、開発中に解決せんことには、工程移管計画の日程に影響する。
注文が入ってるときもあるし、信用問題に関係することもある。
私が担当した、磁器棒のR(アール)の問題は、ゼンブがゼンブ、ダメではナク、ロット間にも差があった。
その差がナニかを調査したのです。
ナンの調査か云うと、磁器棒のカドが角張ってるのが問題であることは分かってました。
それが、どの程度で、問題になるかの調査が第一歩。
チップ部品が主流のイマから云うたら、巨大な寸法やけど、実物は、米粒より、チョッとだけ、大きい程度。
それでも、長さ、径の程度やったら、マイクロ・メーターで、測定出来ますけど、カドの状態は直接には出来ないのです。
出来ないどころか、カドの状態を数値化するのを、どおしたらヨイのかも課題。
とりあえず、そのカドを調べるのに、どうしたのか云うと、投影機と称する拡大装置を使たのです。
下から光線を出して、対象物の影を画面に映す装置。その影を拡大したら、角の状態も、見ることが出来る。
拡大するだけやったら、顕微鏡でもエエし、寸法も測れるけど、立体的な形状のモノはピントを合わす場所が限定されるから、不適です。顕微鏡では、対象物が平面であることが条件になる。
そういう分析装置が何処にどんなモノがあって、ナニに使えるかは、知ってました。
新入社員は諸先輩から、色んなお手伝いを頼まれるし、そのお手伝いを通じて、目的とか、使い方も自然に教わってしまう。そのトキは、私にも後輩が出来てましたけど、頼みませんでした。
新製品の開発そのものが初体験やし、経験もナイ身分やから、実際に現物を見ながら、対応を考えることが重要と考えたからです。
それはそれとして、良いロット、悪いロットから、何個かサンプリングした資料を、投影機の画面に映し出して、トレーシング用紙にカドの部分の形状をなぞったのです。
なぞってばっかりしてても、しょうがナイ。なぞった図から、ナニをするかです。
カドの丸味の状態やから、R(アール)ですけど、Rは、その中心が分かってのことで、意識的に造ったRでもナイし、それを、どうやって数値化するか、ダイブ、悩んで、色んなヒトに相談したのですけど、これと云う名案ナシ。
結果的には、測定中にハタと気が付いて、Rを測定するのではナク、カドの減り具合を数値化するのやから、減った長さを測定したら、どおかいなあと思たのです。
図にしたら簡単に説明出来ますけど、意味がナイので省略。
その測定は投影機の拡大倍率を50倍にするのが適当と判断して、仮に、R50と銘々。開発してる新製品がR50やし、紛らわしいけど、一時的にしか、測定する予定はナカッタ。
ナイようにすることが重要と考えてたワケで、マズは、減り具合を数値化して、その減り具合を、良いロットに合わせるようにしたかったのです。
合わせることが出来たら、磁器棒のミル条件を、ソオなるように設定して、そっちを、標準化してしもたら、R50のことは、管理する必要が無くなるハズ。
極端に云うたら、このことは技術関係の者は不具合原因の要因として、知っとく必要はあるけど、製造関係者はR50のことを忘れても宜しい。と、云う意味です。
思惑どおり、解決出来たら、その問題解決の課程を記録しておく。記録しといたら、伝承出来る。
次回、同種問題が発生したときは、そのことを思い出して、検討調査項目の一つに加えることが出来たら良い。それが経験のチカラと思てます。
そもそも、製造技術とは、それが目標であると諸先輩から教わったのや。
問題が発生して、それを解決するのは当然のことやけど、それを忘れても良いようにしてしまう。それが製造の管理技術力。
管理する項目をやたら増やす連中が居るけど、それは、本来の業務を忘れてる。
理想論から云うたら、製造装置は、材料を放り込みさえしだら、ナニもセンでも、良品ばっかりが出来ること。
管理をセンとアカンのは、それだけ、装置もヒトも、信用して無い、出来ないと云うことになる。
実際、出来んことが多いのやけど、管理も、例えば、投影機を使て、寸法を測定して、合否を決めても、ナンの進歩もナイ。単に、不合格ロットを選別するだけで、されたロットは廃棄されるだけで、単なる資源の浪費になる。
それより、その根本原因の場所で、条件の設定さえ間違うことなくやったら、そうなるようにしてしまうのが良いのに決まってる。
条件設定は、ミルする磁器棒の数、水量、金剛砂の種類と量、ミルの回転速度と時間。それだけしかナイ。どっちみち、管理してる項目です。ナニも増やすことではナイ。
さて、減り具合のR50のことやけど、数値化出来て、その差も分かって、当面は、管理をセンとアカンのです。
そのためには、測定方法の標準化が必要で、それをしました。云うたらナンやけど、ミル条件云々云うても、スグには無理。
まずは、イマ、工程に投入するものを選定すること。最初は、私がやって、見極めしたけど、それをイツまでもしてたら、そのサキのことが出来ません。そやから、受入検査の担当者に作業を移管して、次ぎのことに移ったのです。
その検査は磁器棒の出荷検査でやるべきやけど、投影機は磁器棒製造会社にはナカッタのや。
そして、規格だけは決めたけど、それをミル工程で実現させることが可能かどうか。
実際には、一ヶ月ホド、掛かってしもたけど、ミル工程の条件設定は出来た。
その対策ロットが出荷されて、約、3ケ月。特別管理として、工程不良のデーターを見てたけど、問題ナシ。R50の投影機検査は解除出来た。
これで、R50の磁器棒のカドの減り具合は、関係者以外、忘れても良いことになってしもた。
以降、同種問題も出てナイ。
当時の関係書類は、それから、10年後には廃棄されてしもてた。
それでエエのやけど。
(00/03/06)


16.高倍率化での出来事(1)

R50プロジェクトの磁器棒はナンとかなりました。
その矢先に、オナジ課に配属されてた、同期生が移動になったのです。
その結果、彼の業務を引き継ぐことになったのです。
機械屋さんがやってたことを電気屋さんがやれるのかいな。そんなことは考えてませんでした。
機械の設計をヤレと云うことではナイのです。
それに、そもそも、磁器棒のコトも専門外やった。せっかく、電気を専攻したのやから、ソッチをやりたいと云う気はありました。
どちらかと云うと、機械屋さんは主として機械関係をやってましたけど、電気屋さんはナンデモ屋さんになってました。かと云って、機械には手を染めることはありませんでした。専門家が多いのやから、そっちに任せてます。
彼がナニをやってたかは、雑談程度では知ってました。
抵抗器のカッティング・マシンの高倍率化。
以前にも、少し、触れましたが、磁器棒に炭素皮膜をくっつけたモノが初抵抗。その炭素皮膜を螺旋状(ヘリカル)に切削して、所定の抵抗値にするのです。
まず、その初抵抗値では抵抗値のバラツキが大きいので、許容範囲には入らない。
次ぎに、炭素皮膜の膜厚が厚いホウが抵抗器としての特性が安定している。
よって、安定した抵抗器を製造するためには、初抵抗値のヨリ低いもので、所定の抵抗値に調整することが望ましい。これが、高倍率化の目的で、表現を変えると、カティング・マシンで、その切削倍率を上げる技術を開発してたのです。
そのためには、それ用の部品を使用したらヨイのです。
部品とは、ギアです。自動車と一緒で、エンジンの回転数が一緒でも、タイヤの回転数を変更するときは、ギア・チェンジをしますけど、そのギアです。
彼は機械屋さんですから、そのギアの設計をして、既に、発注してました。
私のすることは、そのギアを使って、実際にどの程度の倍率になるのか、マタ、それをすることで、派生する問題はナイかです。
あれば、その解決をすること。無ければ、工程導入すること。
ハナシはそれだけです。
早速、その調査に取りかかりました。とか、簡単に云うても、その調査を工程でするワケにはイカンのです。工程は通常製品を流す場所。それ以前に、ギアを交換して、倍率を向上させるためには、ギアだけではナク、その切削用機械の回転数も、それに応じて高速化させてました。
実験用のマシンは、実験室に設置されてたのです。
実験室と云うたら聞こえはエエけど、材料倉庫の片隅。
そこに、実験用のカッティング・マシンが置いてあるだけ。
ホカにダレも居てナイ場所やし、気楽や云うたら、気楽。
そやけど、危険が一杯。
(00/03/22)


17.高倍率化での出来事(2)

高倍率化の実験。
そう云うたらカッコがエエのですけど、実際には、データーを取ることです。
そのためには、最低限、カッティング・マシンの操作が要求されます。
その最低限のことが難しい。操作さえ出来たら、データーは幾らでも取れます。
ここで、新入社員当時の応援で金属皮膜抵抗器を製造実験した経験が役に立つ。
そのハズですが、そんなエラソウに云うてもアキマセン。応援のトキは、ソバに班長さんが居たり、作業者が居ます。
自信のナイようなこと。或いは、細々とした、微妙な調整は、頼むことが出来る。
それこそ、モタモタしてたら、班長さんクラスが、
「ナニしてるの。それではアカンがな。ヤッタゲル。」
とか云うてくれる。
このように説明したら、気の利いた班長さんみたいですけど、慣れてナイのにやらしてたら、時間が掛かってしもて、製造の邪魔になるからです。
実験室では一人だけやから、気楽は気楽やけど、細々とした、調整を頼む相手が居ません。ナニがナンでも自分でやらんと、ナニも進まない。
初抵抗を所定の抵抗値にするため、螺旋状(ヘリカル)に切削(カッティング)します。その切削は、マシンに取り付けられたディスクでヤル。
このディスクも、カッティング倍率によって、厚さがチガウ。
高倍率にすると云うことは、螺旋状の切り溝の長さを長くすること。長くすると云っても、モノの寸法は一緒やから、隣の溝と重ならんように、溝幅を狭くするのです。
ここで、切り溝が重なったら、どうなるか。その瞬間に、抵抗値は無限大になって、不良。
よって、高倍率化するためには、ディスクの幅を薄くして、切削効率を上げるため、回転数を、より高速にすること。回転数を高速にする目的は、狭い溝で切削長さを長くするので、高速にしないと、磁器棒まで切削出来ないからです。そもそも、相手は炭素皮膜抵抗。炭素は滑り易いのです。
そのウエ、ディスクそのものは材質が砥石の粉。カタチは、CDとオナジ。丁度、CDを砥石で造ったようなものですから、割れ易い。
割れ易いディスクの厚さをより薄くしないと、溝は狭くならない。
しかも、その先端は、ドレッシングして、鋭利にする必要がある。ドレッシングは、ディスクを回転させた状態でやります。そうしないと、先端に凹凸が出来てしまって、切り溝の深さがバラついてしまいます。マタ、先端を鋭利にすると云うことは、先端部分を研磨すると云う意味になります。
ドレッシングの目的は、抵抗皮膜を切削してる間に、ディスク自身も研磨されて、先端が鋭利で無くなり、切削溝が広くなる。更には、抵抗皮膜表面で、ディスクが滑ってしまって、切り溝が浅くなるのを防止するためでもあります。
まるで、切り溝不良クレームに対する回答書みたいな表現になりましたけど、理屈はそう云うことです。
慣れたら、どおと云うことはナイのですが、このドレッシングが一番難しい作業。
それが出来るようになるまで、薄いディスクを何枚割ってしもたことか。それはヨイのですが、実験用のカッティング・マシンは、古いのを流用してる。調子の良いマシンが実験用には回って来ません。
イロイロ云うたら切りがナイ。簡単には、ディスクを固定するフランジに取り付けるのからして、ブレがナイように、中心を出すのも至難の技。
結局、高倍率化は、その実験以前に、カッティング・マシンの調整技術を班長クラスにすることが先決でした。
早いハナシが、当時のカッティング・マシンでは、ある程度の経験者やないと、通常でも、高抵抗の製造は出来ませんでした。
そうかと云うて、私はそんなに器用でもナイ。
さて、ドウシタモンか。
どうもこおもナイ。ヤランとショウガナイのです。
(00/03/24)


18.高倍率化での出来事(3)

高倍率カッティングのためのデーターは順調に取れました。
当然、作業にも慣れて、もう一息。
そのもう一息のところで、マシンの調子がオカシなってしもた。
工程では、通称、ツマリと称してたのですが、それが多発したのです。
これは、説明する必要がある。
通常、カッティングするマエのブツ(加工する半製品のこと)を初抵抗と申してます。その初抵抗を、カッティング・マシンのパーツ・フィーダー(供給部)に投入する。
そのパーツ・フィーダーから、会社が独自に考案した、漏斗を経て、ブツを一個づつ、チャッキング(掴む)して、ディスクにカッテイングさせるのです。
この漏斗が面白い。振動を与えて、ブツを整列させるのですけど、マシンによって、微妙な差がアルのです。
作業者は、漏斗でのツマリを防止するため、輪ゴム、紙等で、その振動が旨く伝わって、ブツが整列するように、調整してるのです。その、場所、大きさを変えたら、もお、ダメになってしまう。そんな微妙な調整をやってました。
実験機では、漏斗の調整はしてません。特に、その必要性はナカッタからです。
そしたら、快調かと云うと、途中までは、そおやった。ところが、突然、チャッキングの処で、ブツが落下したり、ツマったり。
これは、漏斗の問題ではなく、そのアトの、チャッキングのタイミングがズレたのです。
落下は実害はナイのですが、ツマリが発生したら、ブツのリード線が曲がったり、トキには、ディスクを破損さしてしもたりする。
しかも、もお一息。何種類ものサンプルを、ギアを変えて、カッティングして、評価する。評価は、カッティング状態で、切り溝が計算どおりになってるか、予定の倍率になるかです。そのウエで、どの初抵抗値に対して、どのギアを用いたら、どの抵抗値にすることが出来るのか。簡単には、その一覧表を作成すること。詳しくは、マトリクスを作成、標準化し、工程移管するのが目的でした。
その最後のサンプルをカッティング中でした。マシンの調子が悪い。リード線の曲がったのが、チャッキングされて、ディスクのホウへ運ばれて行く。ホットいたら、ディスクが破損。
咄嗟に、手を出してしもたのです。
手を出して、どおなったのか。チャッキングする部分は金属製のバー。カムで動作して、ブツをカッテイングさせるため、ディスクのホウに運ぶのですが、一瞬、指を戻すのが遅れて、挟まれてしもたのです。ナニにて、バーとディスクの間。
どおなったかと云うと、右手の人差し指のサキをディスクで切削してしもたのです。ところが、指がディスクとバーに挟まれてしもて、抜けへんのです。
運ヨク、丁度、そこえ、倉庫の管理をしてるヒトが通り掛かったくれた。
「ウワー、エライことやってる。指を落としてしもたんか。」
「落としてません。まだ、くっついてます。」
ディスクの刃先は、指を半分以上切削してしもてるけど。
即刻、五条病院へ連れて行かれました。この病院は、会社の近くです。
(00/04/05)


19.高倍率化での出来事(4)

ディスクで切ったのは、人差し指の第一関節のウエのホウ。
骨の半分以上にまで達してたけど、クレグレも、指を落としてはいません。
病院の処置室に入室したら、早速、お医者さんと看護婦さんが現れました。
私のホウは卒倒してるワケでもナイ。意識は、ハッキリしてます。大袈裟な表現になったけど、切ったトキは、どおもナカッタのですが、次第に激痛が走って来たのです。
「横着したらアカンで。」
先生は、そお云うなり、キズ口を消毒して、縫い出さはるのです。看護婦さんが、
「天井でも見てなさい。それとも、目隠しでもするか。」
そんなこと云われても、返事のしようがナイ。切り口が、どんな具合になってるか、針で縫うたはるのも、見てました。それに、殆ど、終わりそうやのに。
歯を抜くにも、局部麻酔をするハズが、それもナシで、イキナリやられてしもたのです。唖然としてしもて、痛いもクソもナカッタのです。
「今日はエエ天気になったなあ。」
「そおですねえ。天気予報も、当たったり、外れたり。」
縫い合わされてる間、先生と看護婦さんは、お天気のハナシなど、世間話をされてるのです。
治療が終わってから、傷口の消毒のため、何日かは、通院するようにと指示されました。
ナニはともあれ、無事終了。処置室を出て、待合室に行ったら、会社の総務担当者が二人来てたのです。
私が怪我したとのことで、お見舞い、キズの程度の確認、そして、治療費の処置です。
一人は先輩社員。もお一人は新入社員の女の子。その女の子がイキナリ、
「センパイ、大丈夫ですか。」
これには、ビックリしました。
この子は同期入社のハズでした。確かに、歳は4歳違いやけど、ナンで、センパイと云われたのかです。
オナジ会社やから、顔くらいは知ってたけど、名前もナニも知りません。ナニか勘違いしてるのとチガウかと思たのです。
「私も、ナンとか高校出身なんですよ。」
それで、先輩と云われる理由が分かったけど、ナンで、私の出身高校まで知ってるのか。
聞けば、総務関係の場合、全社員の住所、履歴等の資料を保管してます。病院に来るマエに、ソレを調べたらしい。
そお云うたら、総務の子は、ダレのこともヨク知ってました。
さて、治療そのものは、10分も掛かってません。
そのまま、会社に戻って、実験の続きをやることにしたのです。
そのためには、カッティング・マシンを調整せんとアキマセン。私にはムリですから、工程の、その機械担当の保全者に依頼して、やってもらいました。クレームの選別とか、そういうトキにハナシをしたりしてますから、「頼むわ。」「よっしゃ。」です。
「それにしても、指に包帯して、どおしたんや。」
ショウガナイし、原因を説明したら、
「アホやなあ。オレもやってしもたことあったけど、骨までは切ってナイで。」
カッティング・マシンには安全装置も付いてますけど、保全、調整のトキは動かし乍らヤリますから、生傷の絶え間がナイらしい。
「素人が、イランことセンと、プロに云うたらエエのや。」
確かに、そのとおりです。イランことせんと、最初っから、頼めばヨカッタ。
そやけど、予定の試料が、アト一点だけやった。ここまでになったら、もおチョット。ツイツイ、強引にやってしもたのです。
そして、後日、社長からも云われました。
「痛いのは、そっち持ちやけど、お金はこっち持ちやからなあ。」
しっかり、社長にまで聞こえてました。
(00/04/06)


20.高倍率化の目的

高倍率化の標準化。
つまり、マトリクスの作成は完了しました。
これで、ナンの効果がアルのか。
炭素皮膜を厚くしたホウが、特性が安定するのです。
抵抗器の一番重要な特性は抵抗値が正確であること。正確の意味はバラツキが少ないこと。
そして、抵抗値が周囲温度によって、変動しないこと。それが抵抗温度係数。更に、雑音(ノイズ)が発生しないこと。
一応、説明しときます。
これは、高抵抗値の製造に適用されるモノで、中間抵抗、低抵抗には無関係。
高抵抗の場合は、カッティング前の初抵抗値の高いものを使用する。高い初抵抗値のものは炭素皮膜の厚さがどうしてもバラついてしまう。原因は、着炭時間が少ないから、均一に炭素を付着させるのが難しくなる。バラツキが多いとなると、抵抗値がバラついていることを意味するので、カッティング倍率がバラバラになって、所定の抵抗値を出し難い。
そこで、ヨリ、バラツキの少ない、初抵抗値のもの。つまり、ヨリ低い初抵抗値のものを高抵抗にしたい。これが、最大の目的になる
カッティング倍率のバラツキが少なくなると、結果的に、歩留りも向上して、コスト・ダウンになる。
ツギに、抵抗温度係数も、初抵抗値の薄過ぎるものより、ある程度の膜厚があるもののホウが安定、つまり、ゼロに近い。
抵抗温度係数の意味を、再度、説明したら、周囲温度の変動での抵抗値の変動状態。その程度が温度係数で、低いと、変動が小さいことを意味する。よって、温度による変化が少ないホウがヨイに決まってる。
ノイズの問題は、炭素皮膜の膜厚の状態に関係してる。一つの製品ナイで、膜厚が安定しておれば、ノイズは少ない。ノイズと云うのは、説明が難しいけど、電流がスムーズに流れてくれれば少ないけど、アチコチに障害物がアルと、そこにぶつかって、ぶつかることで発生すると理解したらヨイ。
初抵抗値が高いと、炭素皮膜の厚さが薄い。薄いと、どおなるか。膜厚の少しの変動で、二倍も三倍もの膜厚の差が一つの抵抗体のナカで、出来てしまうことになる。
電子にとっては、ガタガタの凸凹道を走るみたいなモンやから、ノイズが発生し易くなると解釈したらヨイ。
ツギに、炭素皮膜が腐食に耐えることにナルのです。炭素皮膜の腐食とはナニか。
これは、塗装マエの段階で、人間の汗、唾等、塩分を炭素皮膜に付着させると、炭素が喰われてしまって、断線することになる。
喰われると云うのは、炭素が塩分のタメに、電気分解されて、消滅してしまうこと。
炭素が消滅したら、電子が通過する道が無くなるので、断線となる。
高抵抗で発生し易い理由は、初抵抗の炭素皮膜の膜厚が薄いので、より、早く、消滅することになる。
もっとも、この問題は、最近の製造技術では、人手が触らないような生産設備に変わってるので、ムカシのハナシになってしもてる。
当時は、各工程が分断されて、その都度、人手が接触する可能性があったけど、イマでは、工程の一連化が促進されてるので、その分、接触の確率が低くなった。
(00/05/28)


21.気泡対策(1) メタノール、シンナー、アスベスト

新入社員時代は主として、磁器棒のことをやってました。
これ以外にも、カッティングの高倍率化をやって、指を怪我したのやけど、それだけをやってたのとはチガイます。
種々雑多で、一々、覚えてませんけど、失敗したことだけは記憶に残ってます。その失敗も沢山ありますけど、ナカでも大きな失敗談を紹介します。
これは、抵抗器の塗装工程の品質改善のことです。
そもそも、塗料は、所定の抵抗値にカッティングしたものを、洗浄してから、塗布するのです。モノは液体塗料。
当時の洗浄は、メタノールです。
メタノールとなると、マズ、火気厳禁で、排気設備で直接手に触れぬよお、ゴム手袋の着用。ここまでは、世間常識の範囲ですから、当時でもやってました。
現在なら、更に、保管管理。加えて、それナリの教育を受けた資格のアル人が、揮発成分を吸引セヌよおに、防毒マスクして、眼にも掛からぬよお、保護眼鏡。
排気設備も、桁がチガイます。当時は、気休め程度の排気で、ファンでも取り付けて、単に排気してるだけ。イマは、局所排気とか、ドラフト・チャンバー内で取り扱うとか、非常に厳重です。
ここだけのハナシやけど、メタノール程度で、神経過敏なくらい、大層なことになってしまいました。
このことに関連して、もっと云いたいけど、ここでは辞めておく。
トリアエズ、私など、常時使うワケでナシ。そのまま、素手で扱ってました。結果、手が脱脂されて、真っ白になったりしたけど、それで死ぬワケでもナシ。気にもしてませんでした。化学専攻でもナイから、知識もナカッタけど。化学専攻でも知らんかったやろ。セイゼイ、火気厳禁で、脱脂効果がアル程度。加えて、飲んだら、眼が散ってしまう。
トリアエズ、手垢、油脂分を除去するためには、メタノールなるものは、最も簡便且つ有効な洗浄法です。
抵抗器に限らず、半導体を含めた、電子部品の製造、組立関係では、品質確保のため、メタノール洗浄法は有効と思います。もしかしたら、他社ではやってナカッタ可能性がアル。
ハッキリ云うて、アル品質特性が悪かった。これは、アトのホウでヤル予定です。
勿論、製造工程では、全ての工程作業者は、綿手袋を付けて、作業してますから、直接的には触れることはありません。
そのメタノール洗浄のアトで、塗装工程ですが、塗料は加熱して固まらせます。その加熱のトキ、気泡が発生するのです。
液体塗料は、粘度が重要な管理項目で、粘度を一定にするため、コレマタ、シンナーで、希釈、調整して、均一に混ぜるため、撹拌してました。
云うたらナンですけど、塗装工程では、作業する場所からサキは簡単なカーテンで、仕切がされてました。カーテンのムコウガワには、塗装機のヒーター部分があって、冬など、暖かいのです。ショッチュウ覗いてました。
それと、シンナーの芳香性が漂って、ヨイ臭い。イカニモ、シンナー遊びですけど、シンナー遊びなる専門用語は、マダ、出現してませんでした。
アレを吸うたら、桃源郷に彷徨えるとは、知らなんだ。ダレがどのように発案したのか、大したものです。工程にはポリ袋もあったのやから、ヤロと思えば簡単なこと。
そやけど、アホやねえ。シンナー遊びを流行らすから、ヘンな臭いを付けられたのや。モトモトは、その名のトオリ、芳香性があった。その臭いをキライと云うのも居たけど、私は大好きでした。クレグレも、中毒になるよおなことはしてません。
さて、概略の説明としては、この撹拌で、塗料のナカに、空気も混ざって、固化させるため、加熱すると、その空気が膨張して、塗膜の表面に出て来るのです。出てしもたら、無くなるので、構わないのですが、出てしまうまでに、固化すると、内部で気泡になる。弾けてる途中で、固化してたら、表面に大きな穴が空くことにナル。
塗料に混ざった空気と云うても、小さいのが無数にアルのです。
一番ヨイ手段は、真空状態にして、空気を外部に出す。つまり、脱泡ですけど、これは、塗装機の構造からも、作業性からも技術的にムリなこと。イマなら、理論的には可能と思いますけど、やってナイでしょう。お金が掛かり過ぎる。
そんなワケで、簡単な手段で、気泡を退治することは出来ないかがテーマとなりました。
どんな方法で、対策するか、そこからですが、塗装マエに、抵抗器本体を加熱してしまう。
そもそも、塗料を固化させるためには、ある時間、ヒーター部分を通過させて加熱させるのです。
ヒーターでは、最初に、表面部分の塗料が加熱されるから、表面がサキに加熱されて、表面部分にあった空気は出ますが、ウチガワのは、出るヒマがナイ。
そこで、サキに、抵抗器を加熱してやったら、塗料が付着した段階で、内部から加熱されて、ソトに出易くなると云う発想です。この発想はイマ考えても、マチガイではナイ。
兎に角、これは名案でアルと、早速、材料手配。
ヒーターと、それをカバーする、アスベスト(石綿)板。
コレマタ、当世、発ガン性物質をどおするのやなと、袋叩きに合いますけど、はっきり云うて、アスベストは、耐熱性に優れ、絶縁性が適当で、加工性もヨシ。当時は、常識的に使われてました。コレマタ、発ガン性のことなど、マッタク、知りませんから、実験にも、持って来いの材料との判断です。
メタノール、シンナー、アスベスト。
エライ、組み合わせやけど、神経過敏になることもナイ。
(00/06/24)


22.気泡対策(2) ヒーター作成

マズ、ナニをするかと云うと、塗装マエの抵抗器本体を加熱するための、簡単なヒーターを設計して、造ること。
設計と云うホド、大層なモノではナイけど、一応、設計です。
実際には、塗装機の構造を調査。これも、調査と云うホド、大層ではナイけど、適当にやってしもたら、失敗するだけ。
現場で、ヒーターの設置可能な場所を見つけて、加熱目標を外さぬよお、ヒーターの寸法と、容量を考えることが調査の主旨。
容量云うても、何処までの容量、ツマリ、熱量を加えたら、効果が出るのか、実験するまで分かりません。ヒーターも、簡単に交換出来て、且つ、温度調整出来るよおにすること。
やることは自体は簡単ですけど、そんなこと、したことナイから、具体的に、ナニをどおしたらヨイのかが分かりません。先輩諸兄に、するべきことを聞き回ったのです。
マズは、塗装機は工程にアルのやから、実測して、スケッチしたらヨイ。
ツギに、ヒーター。どんな種類のヒーターがアルのか。形状は、容量は、値段は、等々。
これは、各メーカーのカタログを見たらヨイのです。購買担当、設備設計、保全部署で持ってましたから、全部、借りて見てみた。そやけど、沢山種類があり過ぎて、ナニがナニやら、サッパリ、分かりません。
ハタと気が付いたのは、一番手っ取り早い入手方法として、その塗装機に使用してるヒーターの流用です。
これやったら、会社の設備にも使てるのやから、保全部品として、社内在庫がアルはず。スグにでも入手可能。そのウエで、効果がナイとか、取り付けが難しいとか、問題があったら、カタログで再調査したらヨイ。手元にアル、カタログで不足やったら、もっと、幅広く探したらヨイ。
そんなことで、設備の保全担当部署を訪問して、その旨を伝えました。
こういう場合、選別等、応援で、顔を合わしてる連中がホウボウに居てるから、ハナシも早いし、気易くやってくれます。
ついでに、ヒーターのコントローラーも、アスベストも、そこらで入手。
もっとも、アスベストの板だけ有っても、仕方ナイ。これは、当時、工作課と称する部署があって、旋盤、ドリルから、コンター・マシン等、そこらの鉄工屋はんが所有してる程度の工作機械があったのです。
あった云うても、機械工学専攻でもナイし、使いカタは知りません。
そういう意味では、電気工学やから云うて、設計の講義で、ヒーターの設計をやったワケでもナイのやけど。
部屋に入ったら、オジサンが居てました。コレコレをしたいと云うたら、コンタ・マシンもドリルの使いカタも、教えてくれやはって、加工完了。
ちなみにドリル云うても、手に持てるドリルではナイのです。立派な、据え置きのマシン。
もっとも、ド素人の、私等に使わせてもらえるマシンは決まってます。精度が要求される加工機は、触らせてはもらえません。
この工作課にも、ショッチュウ、訪問することになるので、全員、どんな連中かは知ってます。この部署が、十数年マエ、そっくりそのまま、亀岡のローム・メカテックとして、独立。場所は、我が家から、数百メートルしか離れてナイ。当時の工作課課長が社長になったけど、過日、死去。
更に、工作課の隣に、新栄電機と云うのがあった。
ここは、簡単な、電気装置を内作してたのです。簡単云うても、社内の生産設備に附随する計測器等は、全部、やってたのです。
東洋電具の仕事が忙しいので、敷地を間借りしてただけ。
私が入社して、二年後くらいには、余所に場所を移動してしもたけど、優秀な人材が多数で、新栄電機から、独立された会社も沢山アルのです。
あくまでも、ベツ会社やから、選別等の応援にヒトを出すことはナカッタし、私の業務には、直接、関係もナシで、優秀な人材と評価してたのは、仕事の結果からです。どんなヒトが居たのかまでは知りません。
そんなことで、当時の生産設備に関係したものは、殆どを内作してたのです。
ここから、数年後には、抵抗器の生産量は、日本一になった。
それだけ、生産設備、品質、作業者が優秀で、それに答えた、設計技術者の思想も優秀でアルと云うことにナル。
さて、実験用ヒーターも、新栄電機に、やってもらえとのハナシもあったけど、余所に依頼してたら、納期の問題も出て来る。
自分でやってしまうホウが早い。
それよりも、設計図面なるものが、適当やから、第三者には分かりません。
(00/07/02)


23.気泡対策(3) イジワル工程長

アスベスト板の加工は出来た。
ヒーターも、温度制御出来るよおにして、完成した。
アトは、実験を開始するだけ。
ではあるけど、コトはソウ簡単ではナイのです。
高倍率化の実験では、カッティング・マシンを実験室に持ち込めたけど、塗装機は、図体がデカイこともあって、そんなことは出来ません。工程の設備でヤルしかナイのです。
その手段としては、実験ロットを投入するか、工程の正規投入ロットで調査するかです。
マエの高倍率化は、カッティングそのものが可能かどうか。カッティング・ミスもアルし、特性に大きく影響もする。正規ロットで調査することは絶対に不可。
実験品は、全て、廃棄処分とするから、実験ロットの名目で、工程から貰たもの。
コンカイは、特性に影響を及ぼす問題ではナイ。気泡は外観の問題で、選別して良品だけを出荷することにナルから、顧客にとっては、無害。
但し、実験するためには、塗装工程の長に許可を得るヒツヨウがアルけど、ナカナカ、ウンとは云うてくれませんでした。
新入社員で、実験の応援に入ったのは、金属皮膜抵抗器。そこではナイのです。
いわば、当時の主力製品の工程で、クレーム返品のタメ、外観選別等の応援には参加した工程ではあったけど、ハッキリ云うて、イジワルで、マッタク、人望のナイ工程長でした。
工程長もイロイロあって、性格にも寄るけど、私等みたいな、新入社員の云うことなんか、ハイそおですかとは、聞いてくれません。ナニを邪魔くさいことを云うて来るのやな。寄って来るな。
そやけど、クレームのトキは、応援して当たり前。
もっとも、応援はイヤでもナカッタのです。色んな知り合いが出来た。アアヤ、コオヤと、愚痴などこぼしながら、やるのも面白いモンです。選別応援の経験から、どんな不良がアルのか、どれくらいあるのか、イヤでも分かる。
気泡の問題も、当時、エレクトーンの製造会社が厳しかったのです。顧客としても、大きかった。
私の気泡実験も、その対策のタメです。
塗装工程の気泡実験は、実験計画も組んでます。云うても、温度をパラメーターにしただけの簡単なモノ。実験計画と云う程のモノでもナイ。
工程の設備を使用して、正規ロットを借用する。当然、混入のナイよおに、終始、張り付くことにもナル。尚かつ、作業者にも、お手伝いしてもらうことにもナルから、当然のこと、工程長の許可がナイことには、ナニも進みません。どのロットを実験に使用するのか等、工程管理面からも、調整を要するのです。
クレーム対策上からも、アカンとアッサリ、断られて、ハイ、そおですかと、引き下がるワケにもイカンのです。かと云うて、工程でも、クレーム対策は要求される。
工程長に、名案でも有ったら、それを採用して頂ければヨイのやけど、毎回、外観検査の強化。結局は、作業者へのシワ寄せ案だけ。
根本対策をしないと、意味がナイ。イツまで経っても、ソレがナイから、生産技術が乗りだした。構図としては、そおナッテルのです。
交渉過程で、覚えてることは、
「そんな対策で、どれだけの効果がアルのや。説明セエ。」
どれだけの効果がアルのかは、実験してみないと分かりません。そんな質問して、協力を、拒否してるだけ。云うたらナンやけど、ツギの手段も考えてるがな。私の課題は、気泡対策です。ヒーター加熱は、単なる一案で、加熱することが、目的ではナイ。エラソウに云うてしもたけど、ダレでもそおやと思うけど、一つのことをやってる途中で、ツギなる策が出て来るものです。ホンマは第二案、第三案。同時進行で、やってしまいたいけど、それは、協力が得られて、可能にナル。
そやから云うて、ナニ抜かすと、仮にも、新入社員の私が、先輩社員に向かって、口答えなんかも出来ません。
タダタダ、品質向上のタメ、是非、ご強力してくださいと、お願いするしかナイのです。
それやったら、私の部署の、ソレ以上の先輩社員にでも、アレを説得しておクレ。頼むと云う手段もアルのやけど、それは避けました。
そもそもが、配属された、その日に、上司から、スタッフたるモノ、工程から、信頼されること。
そのためには、人間関係を大切にして、色んな壁を乗り越えること。信頼さえ、得られたら、先方から、頼って来る。そおなって一人前。
そらソオやけど、そおなるまでには、相当な年月がヒツヨウ。それもあるけど、ナニやら、云いつけることにもナル。
アノ、イジワルな、ナンとか、係長は、工程改善実験に協力してくれません。先輩、ナンとか説得してくださいな。
ナンや、オマエ、そんなことさえ、よおサセンのかいな。アカンタレ。
タブン、こんな具合に云われるのが見えてます。ソレも、イヤなこと。
このトキの工程長は、ウエの顔色だけは真剣に見てましたが、シタにはイジワルばっかり。
そしたら、イッソのこと、そのウエに直談判してやろか。そのウエ云うたら、工場長にナル。当時の私からしたら、大々先輩で、雲のウエの存在やけど、評判は、オナジク、芳しくナイのです。
それこそ、新入社員に漏れ伝わるくらいの評判。ダレとは申しませんけど、上司が上司やから、部下も部下との状態。何処にでも有るハナシです。
そやから云うて、こっちがアカンのやったら、アッチを責めんと仕方がナイ。
「カクカク、シカジカで、気泡対策はどおしましょ。」
「イヤ、ナンにもナイで。検査の強化や。」
「そしたら、この方法を試したいのですが、どおですか。」
「係長と相談する。」
そお云うてくれただけ、マシやった。
その工程長と、工場長との相談結果はドオおなったのか。
作業が終わってからやってクレ。明くる朝一番に、製品は戻しておくこと。
一見、妥協してくれたのやけど、トンデモナイ、提案です。
作業終了後となったら、当時、工程は、連日、残業があって、夜、8時過ぎにナル。そこから、実験するとなったら、塗装されて、出てくるまでに、約3時間。そこから、気泡の外観調査してたら、午前様になってしまう。
一種類を投入するワケでもナイのやし、イツになったら出来ることやら。では有るけど、そおも云うてられません。予定してる実験計画に基づいて、作業開始。
そしたら、「アンタ、ナニしてるのや。」
ここで、班長さんの手助けがあったのです。
塗装するには、それなりの熟練が要求される。当時の設備は、塗装そのものは、機械がやるけど、製品を機械にセットするのは作業者がヤル。セットする位置が狂たら、塗装部分がズレて、結果、塗装不良になってしまうのです。下手したら、全数不良になってしまう。
塗装されたモノを機械から外すのは、機械が勝手にやるのです。
そんなことで、セットはやってくれることになったのです。
「不良ばっかり造られたら、エライことやしなあ。」
正直云うて、そのとおり。
それが分かったウエで、工程長は云うてるのです。
そやから、イジワルと影口叩かれるのや。
断っておきます。こんな工程長は、このヒトだけやった。
ホカの工程長は、可愛がってくれたのです。
(00/07/18)


24.気泡対策(4) ワコー電器の初代QC責任者

お陰様で、班長の協力を得て、予定した実験は出来ました。
結果のマトメをしたら、当然のことやけど、温度を上げたら、効果は出る。
ウエからの指示で、そこからサキは、工場でヤレとなったのです。
それで、岡山にアル、ワコー電器なる関係会社に、出張することになったのですが、初めてのことやから、先輩社員に連れて頂いたのです。
先輩も、私のタメに出張するのではナク、用事があったから、そのツイデ。
新幹線なるものは、有ったけど、新大阪から東京マデ。新大阪から西は、マダ、開通してナカッタのです。イマなら、京都から、岡山か、新倉敷まで、新幹線で、約45分。そこからサキなら知れてますけど、会社が終わってから、約四時間で、カブト蟹で有名な、笠岡駅に到着。夜の11時頃やから、そのまま、旅館に宿泊。そのトキの旅館は、「つじ与」と云う。
出張社員の定宿になってたけど、アル人が酔っぱらって、ナニを血迷おたのか、部屋で消化器を発射してしもて、立ち入り禁止になってしもたのです。
武勇伝もヨイけど、限度がアル。その段階から、数年間、ワコー電器に出張のトキは、宿を求めて、アチコチに転々としたのです。
それは、余計なハナシで、当日、早速のことながら、先輩から、工場の、社長、工場長等、エライさんに紹介されたのです。
そんな挨拶ばっかりで、ナニも進まず。昼食の時間になったら、工場のQC責任者が、昼飯に連れてクレたのです。昼食をソトで食べるとは思いもしてナンダ。
私は生産技術の所属で、QCではナイけど、工場の窓口はQCでした。殆ど、やってることがオナジやからです。
本来のQCは、標準類の管理、管理試験が主たる業務やけど、モトモト、私もQCに配属されて、生産技術的な業務を担当して、その部門が独立しただけやから、工場からは、QC部門と見なされてたのです。
昼食は、寿司屋に行ったのを覚えてる。ビックリしたのは、そのネタの大きさ。そもそも、寿司なるものを、ソウソウに、喰ったこともナイのやし、私がネタのハナシをしたら、その長も、こっちでは、その大きさが常識やと、大いに自慢してました。ナンと云うても、ソバには瀬戸内海がアル。海産物は豊富な土地柄です。
そして、ビールを飲めと云う。オイオイ、昼間っから、アルコールはナイのやし、私は下戸。
そしたら、その長がスキらしい。飲んだことにしてクレ云うて、勝手に注文してしもた。
私はコップに一杯も飲んだら、真っ赤っ赤になってしまうからと云うてるのに、これからも、長いオツキアイになるのやから、宜しくと、無理矢理、飲ませるモンやから、ホンマに真っ赤っ赤。長のホウは、ドンドン飲むけど、顔色変わらず。
私がそれほどに成るとは思ってナカッタのやろ。これでは職場に戻るのはマズイと、ナンと社長室で休憩しててクレ。私にしたら、そのホウがマズイのやないかと思たけど、この長は、社長の信任も厚いヒトやから、大丈夫と、自分で云うてました。
実際、厚いカタで、出張の度に、その寿司屋に始まって、ホカの寿司屋も、渡り歩きで、新婚ホヤホヤの自宅から、社長宅まで、ホウボウ、案内してくれたのです。ちなみに、寿司も当人が大好き。当然、私も好きやけど、流石に、お酒は、会社が終わった時だけになった。
いわば、私は、可愛がって頂いたことにナル。そのまま、勤務してたら、ワコー電器の大幹部やのに、親の都合で、退職してしもた。
ワコー電器に、そんな豪傑も居たのです。
(00/08/14)


25.気泡対策(5) 実験大失敗

それでは、ようやく、工場での、実験のハナシです。
工場長、QC責任者、工程監督者に主旨説明して、イザ、実験開始。
勿論、実験そのものは、私がするのやから、説明は、塗装工程の気泡対策として、こんなことをヤルと云うだけのことです。
気泡対策の効果を上げるためには、ヒーター温度を高温にするのが一番やけど、ナニせ、設備の保全者も、作業者も、塗装機の周辺を触ることがアル。
タダでさえ、塗装機の周辺はアツイのや。ヒーターには、カバーがアルとは云うても、取り付け場所は、調整確認等で、ヒトが接近する場所でも有るし、工場のヒトに火傷でもされたら大変やから、条件的には、中間くらいに設定したのです。
マタ、云うのやけど、冬場なら、この場所は天国です。暖かいし、シンナーの臭いも、イマみたいに、ヘンな混ぜモノがナイから、芳香性の心地よい臭いが漂おてるのです。
その臭いで、気分が悪くなると云う奴も居たけど、私は好きやった。イマでも好きやけど、嗅ぐ機会がナイ。
このトキは夏場。作業場所と、塗装機の本体部分はビニール・カーテンで仕切られて、カーテンのムコウは、居てるだけでも、汗が流れる。かと云うて、ソバを離れるワケにもイカンから、必死に耐えてたのです。万が一の不測の事態が起こってもアカンからなあ。
そんなシンパイはあったけど、朝から数時間、特に、ナンにもナカッタのです。そして、昼休みになったから、昼食のため、その場を離れた、その瞬間。
「火が出た。」
と、叫ぶ声が聞こえたのです。しかも、塗装工程のホウから。
ダレかが警報を鳴らす。そこらのヒトが走り出す。私にしても、やってる内容が内容やから、火傷もアルけど、火災もシンパイやから、張り付いてたのやけど。
それが、離れた途端に、火が出たのやて。しかも、実験のヒーターから。
現場に駆けつけたら、初期消火班の面々が、手に手に消化器を持って、集合したのや。その人数ざっと、十名くらい。
マルッキリ、私が消化器に包囲された感じやった。
そして、眼のマエで、ヒーター周辺は消化器の泡で滅茶苦茶にされて、無事、鎮火。
初期消火班は解散。それだけで済んでヨカッタけど、アトの掃除が大変やった。
余談やけど、事業所では、社内で火事が発生した場合、消防署に連絡して、到着してくれるまでのアイダに、可能な初期消火と、社員を安全な場所に避難誘導する体制が義務付けられます。
その体制を自衛消防隊と称してます。
岡山のワコー電器で、消火器を持って現場に走って来たのは、初期消火班。
その他、避難誘導班とか、伝令班とか、イッパイあって、出火がホントウで、危険と判断された場合は、全員が、避難することになるのです。
この当時は、マダ、体制の準備段階で、完全な組織にはなってナカッタから、単に、初期消火班が動いただけとは思うのです。
私も、新入社員当時、京都宇治の大久保にあった、消防学校に一日入隊させられて、避難訓練とか、規律訓練等、受講しました。
私のホウは、食堂は、スグそばやったから、現場に着くまでの数秒間に、色んなことを考えた。ヒーターとしたら、ナンやろ。もしかして、アレやろか。
そのアレは当たってた。
塗料はシンナーで、希釈して、粘度を調整してます。
休憩時間中は、塗装機は回転させてるけど、塗装する抵抗器は供給ナシ。これが、私の計算のナカから外れてたのや。京都で予備実験してたトキは、夜やった。しかも、休憩時間ナシ。
それにしても、ナンで、出火したのか。
そもそも、この実験は、ヒーターで、塗装マエの抵抗器を加熱することで、抵抗器に塗布された塗料に含まれた空気(気泡)をソトに出してしまうことが目的です。
そのためには、塗装直前に抵抗器を加熱することが要求される。
当然、ヒーターのソバには、塗料がアル。塗装中は、塗料も、常時、流れてるから、加熱されても、温度がそれほど上昇することはナイ。ところが、休憩時間になって、塗布される抵抗器がナイから、塗料の供給も停止して、滞留してしまうことになる。
滞留したら、塗料が加熱されて、塗料に含まれてるシンナーが、引火点に達して、発火したのや。
抵抗器の供給が停止したら、ヒーターも遮断するよおな安全対策が必要にナル。
そのマエに、実際に工程導入するためには、万が一の、火傷に対する安全対策も要求される。これは、小手先の対応ではダメ。
早いハナシが、この装置では危険なことがハッキリしたから、初回の予備加熱実験は挫折した。
但し、あくまでも、この方法での予備加熱が失敗しただけで、発想にはマチガイがナイのやから、ベツの手段で、後日、挑戦したのです。
単に、ウエからの加熱を、シタからにしただけやけど。
そしたら、カバーはイランし、ヒトが触る場所でも無いから、火傷のシンパイもナイ。
現在では、製造設備、材料等、製造の設計思想が変化して、この時代の塗装機は、このトキから、十年後には姿を消したけど、この予備加熱は導入されてるハズ。
イマ、総勢五百名のワコー電器でも、このハナシを知ってるのは、何人やろか。おそらくは、居てナイやろ。ロームでも居てナイやろ。
こんな、ボヤ騒ぎを覚えてるのは、当人くらいです。
それにしても、このトキは、夏の熱い時期の、熱い場所やのに、冷や汗が出た。
(00/09/14)