実録ハイテク物語NO.6

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目次

実録ハイテクNO.7

その6・半導体製造部(LED)

27.LEDのクラック対策(4)

26.LEDのクラック対策(3)

25.LEDのクラック対策(2)

24.LEDのクラック対策(1)

実録ハイテクNO.5


24.LEDのクラック対策(1)

RMの移管は無事終了。現在では名前を替えて、生き残ってますぞ。
さて、次なる課題は開発段階のLED。開発段階とは、マダマダ、手造りで、特性は別にして、形だけでも如何にして製造するかの手立てを求めてたのです。
当然、赤一色のみで、所謂、ランプ型と称するもの。
ランプ型とはナンのことかと云えば、豆球の替わりですがな。豆球は、フィラメントに通電して加熱させての発光のため、寿命として、フィラメントの断線が有るけれど、LED、つまりは半導体である、発光ダイオードなら、それがナイことになってます。実際には使用時間と共に、発光量が減少するのですが、ホカの部品のホウが早く死ぬのやろ。
この機種は、LEDチップ(素子)をフレームにロー付け(ボンディング)して、金線で配線(ワィヤーボンディング)し、配線の固定と素子保護のため、樹脂成形(注型)するのです。
工程を簡単に説明すれば、それだけのことですが、そのマエ工程の問題は別にして、注型作業で樹脂クラックが発生した。突然ではありませんぞ。開発段階のことですから、試作の初っぱなからです。
注型工程も、現在では、予め成形されたプラスチック製の型を用いて、樹脂注入してますが、このトキは、金型(ジグ)に直接樹脂注入したのです。その金型から製品を取り出す段階で、樹脂クラックが発生。それも、悉くで、全滅状態。つまりは、形にさえならんのです。
この工程設計をRMの開発者、山本さん担当でやってたのですが、原因不明のため、助けてクレとの申し出が有ったのです。
そのトキには知りませんでしたが、山本さんは、この対策が完了すれば、退職の心づもりをしてたのです。
そんなことはどおでもヨイ。フレーム状態で、見本に渡された、LEDのクラックを確認すれば、一フレーム、二十五個のLEDで無傷はたったの数個。それも、目視で分かる大きさのクラックで、顕微鏡で観察すれば、成る程、全部です。
ここで、注型とは、樹脂を注入することを意味しますが、それだけではダメで、樹脂を固まらせるために、オーブン(高温器)で加熱せねばなりません。
ナニを隠そお、私はLEDの担当にはなってましたが、開発段階のため、我が社製LEDの現物を見たのはこれが初めてでした。
トリアエズ、注型の作業手順を山本さんに教えてもらい、自分でやってみることにした。勿論ですが、LED付きのフレームは勿体ないからフレームのみですぞ。
マズは、金型にフレームをセットして、お医者さんが使う注射器に樹脂を入れ、金型に注入する。オーブンに入れ、所定温度で、所定時間、加熱成形して、取り出して、金型の温度が下がってから、フレームを取り出せば、この段階でダメなんや。
さっきのとおり、目視で分かる大きさです。ナカにはクラックどころか、バッサリ、割れてるものも有りますがな。
「アカンやろな。全部やなあ。困ったなあ。」
山本さんがため息をつく。
この樹脂がダメなんか、金型がダメなんか。温度、時間がダメなんか。注型そのものには経験がナイので、私も一緒に、困ったなあ。
ところで、樹脂は他社がLEDに使用してるモノで、金型も他社のを参考にしてたのです。
イヤ、LEDなるものはロームが開発したワケでもナシ。既に、製品として世の中には出回ってました。
つまりです。材料、設備の概要が分かり、そっくりそのまま真似しても、簡単に、モノが製造出来るワケではナイのです。
そこに、製造技術、つまり、製造条件が無ければ、一個の製品も、製造出来ません。事程左様に、製造条件こそが製造の生命線である。
さて、日本の製造業が亜細亜諸国に技術移転し、結果、取って替わられよおとしてますが、一旦、製造を国外に出してしまえば、元に戻すのは大変やで。大変どころか膨大な時間が掛かるのです。日本は本社機能であると、製造現場がソバにナイから、現場を知らぬ、頭でっかちの机上の空論だけで、エラソオに、口達者だけで、世間に通用する製品を製造出来るもんですか。付加価値の高い、新製品を開発して、明日は明るいぞと、馬鹿な夢物語を云うてるナカレ。
設計図だけなら誰にも出来るけど、工程に投入したら、不良ばっかりで、手直しばかりで、市場に出ても使いモノになるもんですか。
小泉内閣の改革工程表と、パソコンとそのソフトが格好の例やがな。新製品になればなる程、機能豊富一杯満載やけど、中身メタメタで、苦情続出。憤死するぞ。
そんなことはどおでもヨイ。さて、目前のクラック対策はどおしたものか。
(01/11/09)


25.LEDのクラック対策(2)

ナニはともあれ、不具合現品を詳細に観察すれば、欠け、ワレ、クラックの三種類が有る。
注型のことを知っておれば、この三種類の意味は分かるハズです。
総称して、クラックとしてますが、程度がキツイければワレとなり、ワレ部分が本体から分離してしまえば、欠けとなる。
ナンでクラックが発生するかと云えば、何処かに余計なチカラが加わってることになる。その余計なチカラが何処で、何故、加わるかが分かれば苦労は要らんのですが、素人集団故、難儀する。
注型作業をするのはこのトキが初めてでしたが、何回か作業をすれば、実感として、そのナニかがぼんやり見えて来るものです。
金型も幾つかありましたから、金型毎にデーターを取れば、発生状況には傾向があり、クラックの少ない金型と、多い金型が存在することが判明した。
データーはそのよおに物語り、実作業を通じて、その結果には、ウンと頷ける。不良の少ないのは、金型からフレームが抜け易いし、反対のは抜け難い。
抜け難いから、チカラ任せに外すことになり、クラックがポンポン発生する。よって、調査を繰り返してるウチには、この金型は綺麗に注型が出来て、この金型はヤリ難いと、予測が出来るよおになりました。
ならば、金型によって、ナニが異なるかです。
山本さん所有の金型の図面は一つしかナイし、LEDの注型形状もオナジです。イヤ、金型の図面も、金型屋さんから戴いたもので、形状も、実体顕微鏡で観察した程度ではありますが。
そこで、抵抗器用磁器棒の研磨状態を測定した要領で、投影機を用いて、LEDの頭の部分の丸みを測定すれば、差が有った。
つまり、金型の加工精度にバラツキが有るのですが、ヨク考えれば、これは一つの要因であって、ホカにもっと大きな原因が有るハズ。
何故なら、クラックの少ない金型でも、不良発生頻度はオナジで、ワレ、欠けが少ないだけのことやがな。
トリアエズ、金型も原因の一つではあるけれど、ホカにナニがあるのかと、樹脂の乾燥温度と時間を弄くったり。
温度を低く設定すれば、時間は長くせねばなりませんし、長くすれば、作業性の問題が出て来るし、低く過ぎては、樹脂が固化しません。温度を高くすれば、時間は短く出来ますが、気泡が発生するから、アカンのです。樹脂によっても注型温度の適正範囲がありますしねえ。
そおこおしてるウチに、乾燥条件も多少の効果は有るけれど、ヤッパリ、金型には、ナニか隠された秘密があるぞと判断した。その秘密なるものですが、餅は餅屋に聞くのが一番早いぞと、金型屋さんに聞くことにした。
私はこの関係の業者には無縁ですから、山本さんを通じ、来て戴いた。本来なら、此方から、ご訪問するべきですが、毎日のよおに、ロームに来てからとのことでした。
お会いしたのは、社長さんで、一回しか会ってないので、何処の会社かも忘れてしもた。
さて、私の用件ですがと、
「注型で、こんな不良が発生するのです。金型にも傾向はありますが、もっと、ホカにも原因がありそおな気がしてるのです。」
と、包み隠さず、率直に尋ねてみたら、何処其処でもオナジ金型で、そんな問題は出てませんよ。しかるに、注型作業はどんな具合にしてるのかと、質問された。
コレマタ、包み隠さず、作業手順をお答えすれば、ナニやら、無茶なことしてるぞと云わんばかりの表情で、
「それしかやってナイのですか。」
それ以外にナニもやってませんから、ハイ、そおですとお答えすれば、離型剤なるものが有って、金型に塗布せんとアカンのやて。
イヤ、離形剤なる言葉で合点したのです。確かに、金型からの離形がし難いぞ。
そこで、根ほり葉ほり、尋ねれば、金型での樹脂注型作業では、離形剤を樹脂注入部に塗布するのは、常識のことである。
離形剤とはシリコンを溶剤に溶かしたもので、樹脂が金型にくっつき難くするものですて。
「そおですか、有り難う御座います。」
(01/11/10)


26.LEDのクラック対策(3)

流石に、餅は餅屋さんです。
社長さんの話を聞けてよかったなあと感謝感激雨霰。
そのマエに、離形剤は、金型で樹脂注型する際の一般常識であると云われても、初体験故、知らんもんは知らんしなあ。私にとっては、超特大のお知恵を授かったも同然でした。
しかるに、私は電気専攻ですから、知らぬ存ぜぬでも、ショウガナイのですが、山本さんは、機械屋さんですし、金型を手配したのですから、知っといて欲しかったなあ。当のご本人も、
「すまん、すまん。ナニか物足らんなあと思てたで。」
と、頭を掻いてました。
尤も、専攻したから云うて、その方面の知識が豊富とは云えません。実社会に出て、実務を通じ、体験的に知識が増えるのです。
兎に角、開発初期段階とはこんなもので、一般常識とされる事柄を忘れてたり、経験不足が故の落とし穴も一杯有って、失敗と思わぬ不良が続発するものです。
それを一つづつ解決して、次第に安定した品質の製品が誕生する。よって、試作品に毛が生えた程度の新製品を買おたらエライことになりますから、新しい物に飛びつくのは辞めて、暫く様子を見たホウが賢明ですぞ。
そんなことは別にして、離形剤情報により、クラック発生の主原因は、金属製の金型に、注入した樹脂がくっついて、外れ難くなってたのを、チカラ任せに取り出したがため、接着面に亀裂が走ったよおなものと分かったのです。
早速、スプレー式の離形剤を手配して、試してみれば、全滅状態のクラックもスンナリ解決で、関係者一同、と申しましても、二人だけですが、万歳三唱して解散した。
と、そんな旨いことは往きませんのです。確かに、クラックの程度も率も、大幅に改善したのは事実ですが、ゼロにはなりませんでした。
そもそも、一フレーム、二十五個で、クラックの一個でもあれば、エライことですよ。無くて当たり前で、最低限、千個で一個なら、出て来るやも知れん。それも、ド素人が目視で見ても分かりませんが、訓練された検査員が検出したものを、実体顕微鏡で観察すれば、分かる程度ならナンとか合格で、工程移管のためには、そのくらいには押さえねばなりません。
その発生頻度の真偽は別として、対策したつもりでも、工程移管すれば、不良は発生するのです。
ささやかな生産量であれ、大量生産であったとしても、不良は必ず発生するため、製造する限りに於いて、永続的に対策は続行しなくてはならぬのです。
イマ現在、LEDはロームの主力製品で、製造設備も材料も、向上してますし、製造技術の蓄積も山程有って、品質も数段違いのハズですが、それでも、水準のチガウ処でのクラック対策は延々と継続されてるのです。
但し、私が直接にクラック対策したのは、この一時期、たったの一ニ週間だけでした。
いずれにせよ、LEDは工程移管どころか、工程移管の二段階前である開発段階ですから、作業者は居てません。ここから一歩前進して、試作段階にでもなれば、僅か乍らでも、作業者を配属してもらえるのです。それに移行するためには、最低限の製造条件を決定しておかねばなりません。私にとっての課題は、注型条件だけ。その他の作業工程については、別の面々が何処かでやってたのですが、詳しいことは知りませんでした。
兎に角、金型屋の社長さんに助言を戴き、離形剤の導入で、クラック発生の大きな要因は解決出来たのですが、マダマダ、魔物が生息してるため、クラック退治せねばなりません。
そのマエに、離形剤も、ケチると樹脂が金型にくっつくし、多用すると金型に余計なシリコンがこびり付き、注型品の表面にくっついたり、或いは、ざらついたり、クモリが発生するから、樹脂表面の光沢が無くなるぞとのことでした。
よって、手始めには、離形剤の塗布条件を設定して、その要因は除外して。
さて、クラック不良はどおなったかと云えば、目視で分かるクラックが一フレームに一二個が発生してるのです。
数字的には一桁下がっても、この不良率でも高過ぎるため、対策が出来たとは云えません。
冗談抜きで、千個で一個以下を目指すのです。
(01/11/11)


27.LEDのクラック対策(4)

離形剤以外の項目でヤルとしても、そんなに沢山の製造条件はナイのです。
マズは、金型に寄る差はデーター的に調査項目には入れてましたが、金型寸法を修正するのは私の範疇ではありません。それは設計屋の山本さんに任せ、当面はダメな金型を使用不可にする程度で収めてしもて。
それ以外となれば、乾燥温度と時間は樹脂によって、条件が定められており、最初の段階で確認もしましたが、クラックには無関係でした。むしろ、気泡が発生セズ、樹脂が固化すればヨシとしたのです。ホカにも品質項目はありますが、辞めてオク。
そのホカにナニがあるかと云えば、恒温器での乾燥後、金型からフレームを取り出すまでの時間をどおするかです。
これまた、一般常識的に、金型を恒温器に投入し、所定時間経過で取り出せば、金型温度が高いため、室温まで下がるのを待たねば熱いし、火傷する。細かな条件は忘れてしもたけど、乾燥は、百度を越す温度です。
そこでまず、この部分の作業方法を検討することにしたのです。と云うよりも、この辺りの作業条件しか思いつかんし、有りません。この辺りとは、恒温器に出すか、入れるかの辺りです。
熱膨張係数のことですから考えれば、金型が充分に冷えてから取り出せば取り出し易いことになる。それまでは、手で触っても熱くナイ程度にまで金型の温度が下がれば、フレームを取り出してました。
これが問題ではないかと、思い当たり、室温にまで充分冷却してから取り出すことにしたのです。そしたら、クラック不良率は低下した。どのくらいかと云えば、半分やで。それでも、一フレームに一個の割合ではアキマセンなあ。
それと、室温まで下がるのを待ってたのでは、作業効率が悪いタメ、ナンとかナランのかと、要請が有りました。
またもや、半導体製造部長からです。手でナンとか触れるまでなら、三十分。常温付近にまで下げるなら、約一時間半を要するのです。これでは長過ぎるとのことで、要求されるのが分からんことはナイ。その間にもお一回、乾燥出来ますぞ。反論するなら、金型を沢山調達しておけばヨイのです。
そんな理屈は別にして、対策案は、扇風機である。即刻、扇風機を買い求めに走り、実験と云う程ではナイけれど、試してみたら、二十分、風を送ってやれば、常温になる。しかも、オマケにですが、不良率がマタもや半減した。つまり、二フレームに一個程度になったのです。こんなことでも一歩前進かと、ビックリした。
ナニも工夫なしではありません。折角なら、扇風機の風はフレームに当たってから金型に当たるよおにしたのです。かと云うて、目標値の千個に一個には、マダ遠いのですが、クラックの大きさは数段良くなってます。
さて、次にナニをしてみるかですが、方向性は決まってます。乾燥後の冷却方法はここまでで、乾燥前の検討ですが、左程、悩んでません。
乾燥前に出来ることこそ限らてるのです。限られたナカで、出来ることは、金型の加熱程度。
注型用樹脂を注入するまえに金型を加熱してやることです。作業効率は低下しますし、其れ用の設備も要りますが、加熱はホット・プレートで充分やろ。ダメなら、恒温器を調達ですが、マダマダ、この程度のことでは勿体ない。
そこまでは考えてませんが、結論的には、予備加熱でクラックは解決したのです。目視で千個に一個どころか、実体顕微鏡で観察しても、無くなった。
それどころではナイのです。予備加熱の効果があって、気泡も無くなった。薄々は期待してたのですが、これこそ、一フレームに一個が、千個に一個になったのや。
気泡は致命欠陥ではありませんですから、対策事項ではなかったのですが、これにて、クラックと、予定外の気泡の二件が落着してしもて、目出度し、目出度し。
この直後に、重大クレームが勃発したため、仮条件だけを定め、LEDからは手を引いた。
重大クレームとは、ガラス封止型ダイオードのショート不良多発。対応セヨとの大指令です。勿論、製造部長様からの指示。
そんな次第で、半導体製造部に所属の時代、LEDについては試作段階の一二週間しか関わってませんでした。問題解決で、山本さんとも万歳三唱出来ずのまま、LEDは工程移管され、それを機に山本さんは退職したのです。
さて、其処からの大クレームかと云えば、忘れもしません。世界のソニーさん。
(01/11/13)