実録ハイテク物語NO.7

実録ハイテクNO.4 実録ハイテクNO.5 実録ハイテクNO.6
実録ハイテクNO.1 実録ハイテクNO.2 実録ハイテクNO.3

目次

実録ハイテクNO.8

その7・半導体製造部(ダイオード)

NO.20 パチンコの話(2)

NO.19 パチンコの話(1)

NO.18 洗浄方法の変更(6) 耐溶剤性

NO.17 洗浄方法の変更(5) 消泡剤の導入(2)

NO.16 洗浄方法の変更(4) 消泡剤の導入(1)

NO.15 洗浄方法の変更(3) 防錆剤の導入

NO.14 洗浄方法の変更(2) 防錆剤の調査(2)

NO.13 洗浄方法の変更(1) 防錆剤の調査(1)

NO.12 アオイ電子に出張(11) ホテルに黒鬼出没

NO.11 アオイ電子に出張(10) 本格的レストラン(2)

NO.10 アオイ電子に出張(9) 本格的レストラン(1)

NO.9 アオイ電子に出張(8) 信頼性の基本

NO.8 アオイ電子に出張(7) ショート不良対策本部(5)

NO.7 アオイ電子に出張(6) ショート不良対策本部(4)

NO.6 アオイ電子に出張(5) ショート不良対策本部(3)

NO.5 アオイ電子に出張(4) ショート不良対策本部(2)

NO.4 アオイ電子に出張(3) ショート不良対策本部(1)

NO.3 アオイ電子に出張(2) ショート不良の原因系

NO.2 アオイ電子に出張(1) 西原主任

NO.1 ダイオードとは

実録ハイテクNO.6


NO.1 ダイオードとは

暫く中断してました。暫くも、二年と四半期。
早い話が更新をサボってたのですが、続編はマダかのお声を沢山頂戴仕り。
加えて、関係会社の知り合いが見たゾと連絡をくれたりで、誠に有り難いです。
さて、世界のソニーさんからのクレーム受理で終わってますが、クレームは何であったかとなれば、ダイオード、DIODEのショート不良。
DIODEとは何かとなれば、言葉から攻めれば、「DI」とは「2」で、「ODE」とは極を示す。つまり、DIODEとは二極の意。英和辞典でなら、「二極管」となってます。
此れだけでは何にも分かりませんが、二極とは、陽極と陰極の二極。「+」と「−」が有ると云う事でして。
ダイオードの役割を簡単に説明すれば、交流を直流に変換する電子部品。
どんな具合に変換するかとなれば、交流とは電流がプラス側に流れたり、マイナス側に流れるのですが、家庭に引き込んでる電気は交流ですが、それを一方向にしか通電しない働きでして、整流と称する。
チと詳しくなら、交流はサイン・カーブを描きます。サインとは、sin、cosのサインで、下側のカーブを切り取ります。
同様にして、LEDもDIODEの仲間であて、発光ダイオードと申します。何が違うかを一言で説明は難しいけれど、簡単には発光するダイオードであるからにして。
単なるダイオードは電気製品の内部の奧深く、目立たん所に取り付けられてるのとは反対にLEDは目立つ処に取り付けられます。発光は表示機能を目的とするためです。
其れでも何の事か分かりませんが、意味は分からんでも結構。マトモに説明してたら日が暮れる。
日が暮れても専門外の人には分かりませんし、関係する人なら眠たくなる程にバカバカしい初歩の初歩の話です。
しかるに、ダイオードの重大欠陥となれば、ショートとオープンが代表される。
ショートとは、短絡の意であって、プラス側もマイナス側も通電してしまう。
オープンとは、断線の意であって、プラス側もマイナス側も遮断してしまう。
要するに、整流作用をしないのです。
そして、ダイオードの品質向上とは此の二つの致命欠陥を如何にして少なくするかの戦い、挑戦で有ると云い切って間違いは無く、ダイオードが存在する限り、永遠に続く大課題でもありまして。
くれぐれも、少なくするのであって、ゼロとは云うて無いです。
ならば、何を以てゼロとするのかです。
ゼロとは、一万個に一個でも、百万個に一個でもダメです。
千万個に一個でもダメで、一億個に一個の不良でも一個は一個の不良であるからにして、限りなく母数は増えても、不良一個でゼロとは云わんのです。厳密なる意味での不良ゼロとは不可能とする。
感覚的には母数が増えての限りなくゼロ個の不良ならゼロですが。大きな工場、電子機器製造工場では日によってはですが、百万個ものダイオードを組み込む事もある。量産工場とはそんなモノで、年月と共に電子部品の消費量は増大してる。
現在の水準なら、百万個に一個とは、1ppmですが、実力は其れ以下と推測する。
ならば、私の時代、三十年前がどんな具合であったかとなれば、百本に一個とは、1%ですが。とまでは申しませんが、近かった。イヤ、実際の不良率は分からんのですが。
理由は試作段階からよおやくにして、製造、出荷し出したばかりでありまして。
試作の月に五万個が量産の日に五万個の生産量になってました。
云うたら何ですが、言語明瞭には、私がロームのダイオード製品、品質管理の第一歩から踏みだしたと自負してる。
がしかし、何せ三十年も前の話です。アトから想えばですが、ショートもオープンも原因探求から対策にしても至って幼稚、極めて稚拙。
顕微鏡にしても、実体顕微鏡だけのセイゼイ、数十倍の倍率で、製造してたダイオードも米粒程度の大きさ。但し、本体がです。
実体顕微鏡が有っても、解析方法からして手探りでして。
一応は半導体ですから、素子はシリコンの結晶を使ってる。シリコンも結晶になると、誠に脆弱、脆い物質です。
ダイオードの構造は単純でして。単純でも細かに云い出したら切りが無い故、更に単純なる説明すれば、本体、本体とは素子ですが、チップとも云いますが。
大きさ、0.5mm角程の厚さが0.3mmの素子をガラス管に窒素雰囲気で封入し、リード線が付いてる電子部品。
実際には現物を見て戴き、且つ製造工程を見学しなくては分かりません。素人が一時間程度の見学で分かるモノでは無いけれど。
携わってる者以外は分かっても意味が無いですが、ガラス封止型ダイオードの組立工程全容を知る者は現在では少ないのでないか。
何故なら工程の大部分は海外に出てしもてます。
(04/02/04)


NO.2 アオイ電子に出張(1) 西原主任

百個に一個。
不良がそんなに多いのにも関わらず、恥ずかし気も無く出荷してるナとなりますが。
云い訳すれば、評価の方法も分からんし、実際には其の数十分の一程度と把握してました。
何でそんなに差が有るのかはアト廻し。オイオイに分かる。
そもそもが、幾ら何でも、百個に一個の不良を検出してたら出荷はしてないです。
曲がりなりにも出荷検査はしてるし、検査の数も一ロットが概略一万個で百個をサンプリングして、不良率が1%では全滅やんか。
但し、ロットの大きさは生産量が増え、品質が安定してくれば拡大出来る。現在のロットの大きさは十万個以上と推測する。
突然にショート不良対策セヨと指示されても困るのです。
そもそも、RMにLEDにです。殆ど其方に掛かり切りで、ダイオードの組立工程も社内にはあったし、見てたけど、実際に作業した訳で無し。
指示ですから、即刻四国香川県のアオイ電子に馳せ参じ。勿論ですが、宇高連絡船が立派に現役の時代です。
アオイ電子は高松工場が本社。現在はロームと無縁ですが、ダイオード製品の主力工場でありました。
連絡船、最終便で当時の四国の玄関、高松に上陸。泊まった先は、「高松ホワイト・ホテル」で、ナカナカに佳い名称。
朝一番からタクシーにて工場です。
工場の人は何人か知ってるけれど。知ってるとは実習でロームに来られてたからで、工場には初めてなんです。
但し、肝心の品質管理、QCの人とは初対面。電話では話はしてますが、今回の件で宜しくとだけ。
QCの親分は西原主任。ニシハラでなくて、サイバラで、ご出身は高知。モ一人、安達さんが担当してた。
西原さんは、私より五歳は年上で独身で。お酒に強く、佳くつき合わさせられた。
下戸の私はお酒にはつき合えへんので、食事だけ。しかも、いつも出してくれるのです。早い話が奢られっぱなし。
タマには出させて欲しいと懇願すれば、独身やし、一人暮らしやし。一人で寂しく夕食もつまらんやないですか。一緒にお付き合いしてくれるだけで感無量。
独身とするなら、私も独身やたけれど。
まあまあ、柴田さん、そんな事云わずに出させてください。ビールもコップに半分程度ならつき合って下さいヨ。
コップに半分で私の顔は真っ赤っ赤でヨレヨレでして。
イヤ、西原さんは誠に豪傑。お陰様で方々の食堂に連れてって戴いた。
そんな話も追々で、肝心のショート不良対策です。
何をするかの具体案も無いです。兎に角、即刻四国に飛んで、何でも佳いから対策して来い。
即刻と云われても、工程の全容も知らんのにです。
よって、到着開口一番、自己紹介は当然ですが、頼んだ事は工程で作業をさせてクレ。
「お断りします。素人が下手に作業されたら、不良を造る事になります。」
成る程納得。されど、実験品とか練習用とかで何とかなりませんかと一歩も退かず。
本当はダメですが、内緒でさせて上げましょう。但し、一日だけ。
一日で組立工程全部の実習は無理ですが。全くの素人でも無いけれど、見てると実技では大違い。
材料をバラ撒いてしもたり、治具が可笑しくなたりの失敗で工程の班長さんに叱られてばっかりですが、概略の製造の作業方法は分かった。
分かっても、果てどおするか。何をするかです。
クレグレもお断りしておきますが、最初に断ってますが、ガラス封止型ダイオードにとって、ショート不良もオープン不良も永遠の課題です。
そんなに簡単に一発で対策出来てたら世話は無いです。上司も承知で指示してるのですが。
以降も寄って集っての知恵を出し合いの対策で効果を見定めつつの一歩一歩の品質向上をしてるのです。
そんな事もどでも佳いです。当面の課題です。
実は、世界のソニーさんからのショートのクレームも現品を見て無いのです。
先方様からの情報は一言だけ。
ショートになったり、回復したり。可笑しいゾ。何とかセヨ。
其の一言で不良状態は分かるのです。
(04/02/05)


NO.3 アオイ電子に出張(2) ショート不良の原因系

ショート不良とは短絡でして。
電気的にはツーツー状態。電気は流れっぱなしでダイオードとしての用を成さず。
下手したら、ホカの部品にも損傷を与える。勿論ですが、ダイオードを組み込まれる際には考慮して、保護回路は組まれてます。
現象は一つでも原因は様々。大きくは三つ有る。
組立不良、素子不良、そして異物不良。
組立不良は製造工程で除去してます。
何故か分からんのですが、組立不良が素通りする事も有りますが。
電気的特性なら、何度も測定、スクリーニングしてますから素通りは可笑しいけれど。工程での製造ラインのトラブルとか、人為的ミスに決まってる。
素子不良とは、素子が壊れ易い状態にあったか、顧客で破壊したかです。
素子が壊れ易いとは、素子にも欠陥が有りますし。其のためのスクリーニングも追々に実施してます。
顧客で壊す事があるかとなれば、結構多い。
ダイオードにも流せる電流、加える電圧には限度があります。規格と称するのですが。
規格があるのに無視するとか、無視はしてないけど、設計ミスしてたりで。失礼乍ら、設計者はホントに電気屋さんかいなと。
勿論ですが、静電気破壊も有るのですが、此の当時は問題になってませんでした。所謂、ICと違いまして、構造は簡単で静電気には遙かに強い。静電気だけでなく、過電流、過電圧に強いです。かと云うて静電気破壊の可能性はゼロでは無いです。
残る異物不良が問題でして。素子を封入してる部分は中空状態。
半導体の材料とはシリコンの単結晶、インゴットですが。スライス、薄く輪切りにしてウェファーとし、不純物を高熱で拡散させるのです。
その他、諸々の工程を経て、米粒以下の大きさにダイシング、切削です。
完全には切削セズに半切り状態でクラッキング、割るのですが、其の際に破断面のシリコン片が取れ易くなる。
完全に切削しないのは技術的なる問題がありまして。此の問題も日進月歩、現在では完全切削出来てるのではないかと。
イヤ、しなくてはなりません。現在の工程は知らんけど、ウェハーを完全切削すれば、シリコン片に寄る異物ショート不良は激減する。とは私の考えですが。
元もとがシリコンの単結晶は脆いのです。しかもシリコンは金属であるからにして、欠片が中空に入り込むと異物となって動き廻り、ショート不良の原因となる。或いは、封止されたアトでも素子本体から分離する事があるのです。
イヤイヤ、シリコン片に寄る異物ショートだけでも要因は幾らでも考えられる。
或いは、組み立てる治具がカーボン製のために、其の破片。リード線は金属やし、其の破片。その他諸々、繊維にゴミ、チリ、髪の毛であったりしまして。
よって、現在ではクリーン・ルームで組立てられてますが、当時は申し訳程度に白衣を着てたのです。勿論、マスクもしてますが。
白衣にマスクも看護婦さんか、お医者さん程度の服装でして。頭からスッポリでは無かったし、靴もセイゼイ、上履き用のサンダル。
早い話がクリーン・ルームの概念に乏しかった時代の気休め的、クリーン・ルーム。実際にもクリーン・ルームとは云うてなかた。セミ・クリーン・ルームです。
要はクリーン・ルームにしたツモリの、どちらかと云えば、作業者に対する教育的、意識付け的色彩が濃厚。
とまあ、こんな具合に簡単にでも、概略の説明出来るはアトからでして。
其の時には何をしたら佳いのやら。
分かってたら、上司もこんな事を何時までにヤレと、具体的なる指示を出してます。
誰にも分からんから、抵抗器製造部から異動したバカリの素人に近い若造の私にショート不良を何とかセヨと云うただけ。
当時でも分かってたのは、回復したりする故、ショート不良も異物が原因であると。
対策を任されても、俄に出来ません。異物には沢山の種類が有ると分かったのは、モッとモッと先の事。
イヤ、薄々は分かっててもそお簡単に対策なんか、出来るモンですか。組立治具を初めて触った程度。ヤルにしても莫大なる設備投資をせにゃならぬ。そんな権限が私にあるかいな。
そんな中、犯人であると分かってたのは、素子の破片、シリコンであるの一点ダケ。
理由は製造工程を知れば、誰でもが判断出来る。
犯人が分かっても逮捕するのは至難の技で、如何様にしたものか。
工程に入って、実習し乍ら考えたけれど、分からんモノは分からんのや。簡単に分かって、出来るのやたら、試作から量産段階でやってるし。
量産工場のアオイ電子で対策してるワイ。などと開き治っても居てられん。
世界のソニーからのクレームです。
云うたら何ですが、腹案も無くて対策しに工場に往ったのはこれ一回だけ。
(04/02/06)


NO.4 アオイ電子に出張(3) ショート不良対策本部(1)

不良対策の基礎の基礎の第一歩です。
ゴタゴタ云わんでも、悩まんでも、出荷検査で検出された不良品を見れば、異物の正体は分かります。
異物でなくとも分かります。どんな不良が有るのかです。
異物なら電気的特性不良を集めれば佳いです。米粒程の大きさでも、実体顕微鏡で充分です。ガラス封止型やから、ガラスを通して中身が見える。
イヤ、誠に凄まじい。何でライン機で引っ掛からんのかと。ライン機とは特性測定、スクリーニングと標印を施す生産設備です。
実際問題、正直な処ではです。不良品を沢山見てたら、とてもやないですが、自社製品に自信を失う。
理由は簡単。出荷検査とは、出荷予定製品からのサンプリングです。其処の不良品とはタマタマに見つかっただけ。工程能力を如実に示してるのです。
工程で撥ねられた不良品を見たら、もと、眼を覆う。其れが品質管理担当者の宿命ですが。
しかるに、ショート対策セヨと指示した部長はダイオードの開発責任者でもありました。開発責任者でも対策が分からんのですが、其の功績で以て部長になられたのですが。マダ上には部長が居たはりまして。其の人が本来の部長であって、誠にヤヤコシイ組織です。
勿論ですが、私にはQCとしての直属の上司が居てました。先刻紹介スミですが。
居てるのに製造部長からの指示が飛んで来るから困るのや。直属の上司にはカクカクのシカジカでと報告せんとあきませんし。部長にも電話の有る都度報告せんとあかへんし。
報告すると云うても何も無い。工程で作業実習させて貰いました。
結構な事やな。それで、対策はどする。
どすると問われて、こすると返答も出来ひんし。
二人して電話で、困ったなあ。困りましたねえ。
何度も何度も工程に足を運び、見てるだけでは意味無いし。
決意だけでも示さんとと、西原さんに頼んで、お借りしてた机に垂れ幕です。
イヤ、アオイ電子の社員で無いから机は無いです。適当に空いてる机を借りるのですが、「ショート不良対策本部」とマジック・インクで下手な字で。
垂れ幕を見た、出張中の大先輩がナカナカのやる気充分であるゾ。感心したゾ。
高き評価を戴いたけど、真相は妙案が無いからでして。せめてもの気休めにと、張っただけ。
イヤイヤ、たったの一人の本部ですが、一番にてっとり早いは現場の責任者、関係者のお知恵を拝借する事です。
西原さんに会議をしましょう。当時流行ってた、ブレーン・ストーミングです。会議なら、一応はブレーン・ストーミングですが。
ブレーン・ストーミングの主旨、要旨なるは、何でも結構。想いつきで結構。理屈、屁理屈不要で、出て来た案には断じて反論セズ。真面目に取り上げる事。
集まって戴いた面々は、アオイ電子のダイオード製造課長、松尾さんと云うたやろか。スグに退職されたか異動になった。
前工程の主任さん、間もなく退職された故、お名前を忘れたけれど。
ダイオードの組立工程も大きくは前工程と後工程が有るのです。材料をダイオードの形に組み立てる白衣の工程が前工程。
一旦形になれば、白衣の不要な後工程の係長さんも出席ですが、又もやお名前を忘れてしもたけど、面白い人やった。
スグに退職されたのですが、クレグレも私のセイではありません。
そんな影響力があるもんですか。当時は高度成長時代です。人材不足で何処からでもお声が掛かるし、転職も日常茶飯事やった。
その他、設備からQCまで、総勢十数名が会議室に集まってくれたのか。
とりあえず、会議の主旨説明しまして。
「世界のソニーさんからの異物ショートのクレーム発生故、対策しなければなりません。」
ちなみに、世界のソニーとは私が勝手に云うてるので無いです。テレビ宣伝でもやってたし、当のソニーの品質管理者が面と向かってそお云うたと、製造部長から聞いたんや。
以来、世界のソニーさんは社内的にも大流行の言葉となた。
誤解無くです。茶化してるので無いです。世界のソニーに異論無し。ダイオードを量産間無しで高名なるソニーに納入出来た事は大々々金星の象徴的表現でありました。
ソニーから注文が取れたら、他社にも宣伝になるやんか。自信を持って、量産、拡販出来る。
其れまでは、云うたら悪いけど、聞いた事の無いよな顧客で、クレームも無かった。無かったからホカの事ばっかりしてたんや。RMであるとか、LEDとかや。
尤も、一人で三種類もの製品の品質管理とするよりは生産技術的、品質改善的業務が出来てたのは出荷量が知れてたからであて。
LEDはマダ試作段階やったし、RMはクレーム皆無で、以降ほったらかしで、ダイオードを主として担当したのです。理由は出荷量がドンドンと増えて、クレームも発生し出したからで。
そんな事はどでも佳い。名だたる大会社は品質にも五月蠅い。
五月蠅いからこそ、解決に向かうための品質向上の努力、切磋琢磨するのんや。
日本が世界に冠たる半導体製造の地位に君臨出来はクレームのお陰として過言で無い。
クレームが無ければ進歩はしやへんし、ロームも日本一。と云う事は世界一のダイオード生産量を誇るになって無いです。
イヤイヤ、そんなデカイ話でなくて、三十年前の日産十万個段階での量産工場に於ける初の異物ショート対策の話です。
表現を格好佳くなら、歴史的異物ショート対策会議なんやで。
(04/02/07)


NO.5 アオイ電子に出張(4) ショート不良対策本部(2)

「ショート不良対策本部」設立に寄る歴史的異物ショート対策会議。
ブレーン・ストーミングであるからにして、何でも佳いから案を出してクレ。出来る出来ないは結構です。などと前置きは格好佳く。
どんな案が出て来たかとなれば、古い話過ぎて。三十年も前の話やで。
ではあるけどイキナリにもビックリするよな案が出たのを覚えてる。
忘れもしません。後工程の係長さんからです。
「コップの中に水を入れて。
素子を放り込めば、欠片が分離出来るのではなかろおか。
遠心分離器みたいに廻すとか、お箸でかき混ぜるとかしたらどおですか。」
ブレーン・ストーミングでは如何なる案にも反論したらアカンのです。
一切の反論はして無いけれど、簡単な構造とは云えど、ダイオードの素子も半導体でありまして。
其処等の水道水で洗浄するよな調子ではエライ事になる。半導体で使用の水とは純水に超がつく、超純水。不純物が限りなくゼロで、絶縁水に近いのです。絶縁水とは電気を通さない水である。
イヤまあ、実験するなら出来ますが。素子製造工場、岡山県井原市にあったのですが。矢っ張り、ロームと無縁になてますが。
其処から超純水を調達すれば佳いのですが、やるには折角の超純水に不純物が混ざらぬよに細心の注意と設備が必要やし。
やったとしても、素子に何かをしてしもたら、危険が一杯、実験品が出荷出来ひんのや。厳重なる評価試験の結果が出てからになるし、出ても副作用があったら廃棄処分やし。
印象的に、感覚的にも効果も無さそやしで、内心ですが、困った案を出してくれたなあ。
出来れば組立工程内独自で即刻出来る案が佳いのにと。
されど、一生懸命に考えて戴いた妙案です。充分に理解してます故、厭な顔セズ、ニコリと微笑み黒板には、輝ける一番手として、「超純水で素子洗浄の法」と明記。
マズは口切りの一発目が出たら、次々です。此処から先は誰の案かは記憶に無いです。
「カーボン治具を金属製に出来ないのか。」
大いに一理も三理も無理まである意見なんです。カーボン治具とはダイオードを組み立てる治具でありまして。
素材がカーボン、炭素そのものでして。よってカーボン治具と称してたのですが、カーボンも脆い故、欠片がダイオードの空洞に混ざるのです。
カーボンが素材の理由は簡単には窒素雰囲気でカーボンに通電、カーボン治具を発熱させる事に寄り、ガラスを溶融させて素子をガラス管内に封入させてるのです。
当時の封止設備はシーラーと申しますが、カーボン治具一個で、ダイオードを千個程度封止出来るのですが。治具一面一面をシーラーに入れてたのですが、現在では電気炉、連続炉とも云いますが、なってます。
金属製治具なら導電性も有るし、欠片が混ざる確率も少なくなるし、云うたら悪いけど、「超純水で素子洗浄の法」からしたら数段上の立派なご意見。
がしかし、成る程のご名案であっても、ハイ、そおですかと簡単に出来る対策案で無いです。
まずは、カーボンの如くにガラスを溶融させるだけの発熱しなくてはなりません。
加熱に寄っての膨張があってもいけませんし、溶けたガラスが治具に付着して取れんよになってもアカンのです。ガラスは溶けると金属に付着し易くなるのです。
付着防止だけなら表面コーティングの法もあるけれどです。
名案であっても、現在の連続炉で、且つ自動機で組み立ててるのに、カーボン治具を使用してるのですが、以来、三十年も経たらさぞかし、素材的にも相当なる進歩してる事でもあるしです。金属製治具も真剣なる検討段階に入っても佳いです。
イヤイヤ、以降も折りに触れ、金属製治具は検討されてるのですが、実用化が出来て無い。出来てたら、導入してるし、異物ショートの原因の一つが激減するやんか。
何が阻止してるかとなれば、治具一面の値段。値段に見合う品質向上と作業性、性能が有れば佳いけれど、ソは簡単な事で無いです。
されど、三十年前にも案は出た。
よって、成る程と、「金属製治具の法」と黒板に記載。
そして、記憶に残る妙案、ペレット・クリーニングの時間で何とかならんのかと。
ペレットとは素子の事ですが、前工程で素子を組み込む際にはペレット・クリーニングなる作業が有る。
ウェファーのダイシングで発生のシリコンの破片とバリをクリーニングしてるのです。
当然ですが、シリコン片異物対策として、開発段階から導入されてるのであります。
(04/02/08)


NO.6 アオイ電子に出張(5) ショート不良対策本部(3)

「ペレット・クリーニング条件見直しの法」
ウン、分かった。皆まで云うな。其の一言で理解した。
とは、先刻ご紹介の大先輩の口癖ですが。現状工程で出来る対策案であります。
しかるに、モと詳しく説明なら、「ペレット・クリーニング」とは茶漉しにペレットを入れて、バイブレーターで振動させる事に寄り、ペレットの破片を漉してたのです。
茶漉しは茶漉しです。正しく、お茶っ葉を漉す茶漉しをそのまま使てたのです。とは云うても茶漉しも目の粗さ、メッシュが種々有って。ペレットが落ちんと、欠片だけが落ちる最適のです。
冗談ではなくて、標準書にも何処製の品番はどれと明記してました。
ペレットの破片だけでなく、ペレットにはバンプと称する突起、銀ですが、銀の電極が鍍金法で取り付けられてたのですが、取れ易くもあって、茶漉しで振り落としてたんや。
工程で即実験可能な対策案とはこんな案を指す。所謂条件の見直しです。
イヤ、ペレット・クリーニング条件は設備とする程の装置で無いのですが、作成段階で設定されてるけれど、細かな条件出しはして無いのです。
イヤイヤ、ご名案です。
そして、もっともと、記憶に残る対策案。ウン、成る程とは想たけど、方法論が問題の法。
「ジュメット線の切り口の金属片を除去するの法」
何の事かとなれば、ガラス封止型のダイオードはガラス管に素子を封入するのですが、単なるリード線ではくっつき難いのと、ガラスとの膨張係数が合わん故、ガラスにクラック、割れが発生する。
よって、ガラス管と接触する部分にはジュメットと称する特殊加工の合金を使ってる。
極簡単には、鉄とニッケルの合金。一定寸法に切断する際の破断面に金属片が延びて、付着する。
モノが小さいために色んな問題が有るのですが、組み立ての際に取れたり、シーリング、封止の加熱で取れたりで。異物ショートの原因の一つになってるのですが、破片を何とか出来ひんやろかの案である。
イヤイヤ、発案者は記憶してる。
設備担当の川地さん。現在ではアオイ電子の経営幹部であるぞよ。
素子を弄くるよりは遙かに安全度は高く、皆まで云うて貰わんでも、直感的に効果が有ると云える。
此の時には成る程妙案。されど、方法をどするのかと。
私は機械屋さんとは違いますが、流石に川地さんは設備担当やから、お手の物。年数経過する事の五年後にはスタンピング・マシンとして、開発実用化した。
誠にご立派であります。スタンピング・マシンは厳重なる品質確認の下に全面導入に至ったのです。モノからして品質に悪影響は無いけれどです。
要はジュメット線を上下にスタンピングするかの如くに動かして、破断面に付着の金属片、バリを叩き落とすの法なんや。現在でも堂々と自動機に組み込まれて生存してる。
事程左様に品質改善とは、即刻でも実験出来る事と理論、理屈、直感的に効果が有るのが分かっても、スグには出来ひん事がある。
そして、効果が有るのは分かっても、現状では素材、手段が無いから実現の出来ん事が有るのんや。
現在唯今では実用化が出来んでも、近い将来の関連技術の開発で以て、可能性が出て来る事も有るやろし。もしかしたら、既に世間の何処かに存在してるカモ分からんのですが。
或いは、採算さえ合えば、メーカーが開発してくれるのですが。
兎に角、出張して即、私自身も工程の詳細、細かな事までは知らんけど。
知らんからこそ、開催した歴史的、「異物ショート対策会議」は有意義なモノやった。
ソかそんな発想が有るのかとビックリしたし、怖い事を云うなと想たりで、大いに参考にナタ。
そもそも、対策会議とは、色んな知恵を出し合う場。情報交換の場でもあて。
その場では出来ん案ばかりでも、参加者の意識付け、意志統一を図る事が重要なんや。
近頃、米国方式のトップ・ダウン、上意下達が流行ってますが、意味が無いとまでは云わへんけれど、上意での問題解決は難しい面もある。反論出来る雰囲気なら佳いけれど。指示になって仕舞うやろな。能力の有る上意、的を得た下達なら佳いけれど。
対して、ブレーン・ストーミング、現場の人は真剣に考えてる。
三人も寄れば文殊に勝る知恵なんや。
などと、堅苦しい話が続くけど、モ暫く我慢。
(04/02/09)


NO.7 アオイ電子に出張(6) ショート不良対策本部(4)

そんな事で西原さんと二人してです。
「ペレット・クリーニング条件の見直しの法」を決行。
半導体製造部に配属されて、ダイオードについての初仕事は簡単。
茶漉しの下にガム・テープを置きまして。落下した破片を一分毎に回収。異物量の推移を見れば佳い。
現行条件は三分やった。一分毎に落下物を収集すれば、三分で収まらんのは分かったけれど、五分でも不充分やから、十分に設定したのか。
其れ以上にすると、バンプが取れて来るのです。逆には何分やっても落下物は収まらん。
正確には収まって来るけど、作業性も考えんとアカンやないですか。無闇に長くしたら、工程から苦情が出て来る。作業時間が長くなるからや。
よって、証拠物件、ガム・テープの異物を提示して。斯くなる次第で十分にすると一言で済みそな指示やけど、ソ簡単に製造責任者はウンとは云わん。
抵抗器製造部から来た、若造が何抜かす。とまでは面と向かって云われへんけれど。
「製造の事も考えて欲しい。
現状一人、班長が仕事の合間、片手間にやらせてる業務です。三分を十分にされたら、班長としての仕事が出来ません。」
そらそおや。新入社員では無いけれど、ダイオードの製造工程も佳く知らんよな奴がポッと出張で四国高松にやって来て、証拠物件が示されたとは云えど。世界のソニーさんからのクレームと云えどです。
成る程、落下物を見たら、十分が妥当とは分かるけど、十分で実際にどれだけの効果が有るかが分からん。
効果は有りそには見えるけど、言葉を替えたら、シリコン片と異物ショート不良の関係が明確で無い。
誠に痛い処を突かれた。評価方法さえ確立されてタラですが、ペレット・クリーニング時間とショート不良率の関係を出せば一発で判明する。
此処で云う評価方法とは、早く確実に結果が出せる方法やけど、無かったなあ。
結果で差が無ければ、作業時間が増えるだけで無意味やし。差が有ったら、問答無用とまでは申しませんが、妥当な時間を実験的に実証出来るのに。後年、出来るよになったけど、此の時には無かった。
加えて、ペレット・クリーニングは組立工程だけで無く、素子製造工程でのダイシング後でもやってるのです。
もっと云うたら、前工程でのローディング作業、とは材料を組み合わせる作業ですが、素子を組み合わせた都度、残った素子は茶漉しに戻してるのです。バイブレーターはして無いのですが。
此れでは何の事か分からんのですが、説明を追加すれば、素子とは約五万個程度を瓶に入れて素子工場、シンコー電器ですが、送られて来る。
組み立てはカーボン治具にローディング作業で行うのですが、治具にセット出来るのは約千個。残りは回収して、次ぎのカーボン治具にローディングする。
素子が少なくなれば、瓶からつぎ足して作業する。ローディング作業の都度、シリコン破片は発生する。
発生するから回収の都度、茶漉しで簡単にシリコン破片を漉してるのです。
工程責任者の云わんとする事は佳く分かってる。もっと云うたら、素子製造工場でペレット・クリーニング時間を長くしてクレ。
いやまあ、製造とはこんなモノです。理屈では理解してても、人員、作業性の事が第一義でありまして。
言葉を替えれば、何でもかでもQCの指示をハイ、そおですかと引き受けてたら、幾らでも作業性が低下する。QCは面倒な事ばかりを要求して来るのや。
相手が実績のある経験者なら仕方が無いけれどです。
かと云うて私にしても、一旦指示したからには引き下がれへんやんか。
作業性、時間が問題なら、ペレット・クリーニング機をモ一台でも二台でも造ってクレ。当面は十分で仮実施してクレ。
結果は出荷検査でのショート不良率で判断する。出荷検査結果で差が無しと出たら、元の条件に戻す故。
しかるに、出荷検査でソ簡単に結果は出ません。気の長い話で、一ヶ月、二ヶ月の期間を要する。
しかも、しかも、当時は出荷検査の資料もまとまって無かった。
もっと云うたら、クレーム対策やから悠長な事はしてられん。無理でも屁理屈でも、ごりょ押しにでも、対策しんとアカンのや。
ちなみに、ごりょ押しとは、ごり押しです。
(04/02/10)


NO.8 アオイ電子に出張(7) ショート不良対策本部(5)

評価の方法が無かった訳でも無いけれど。
カーブ・トレーサーと称する測定器とか。電源とμメーター、測定治具で出来ますが。
イザとなれば、人海作戦での全数選別、ソニー向けだけですが、出荷予定も最後の手段としては有ったけど。
対策案はマダ有った。とするよりも、世界のソニーから即刻の対策品を出せ。さもなくば、取引停止であるゾと宣告されたら待てへんがな。
逃げ手とするのか、安直な手段としては、「ライン機二度流しの法」を採用。
イヤ、上司にどするかの打診でそおなった。
何の事かとなれば、測定、標印するライン機を通過した良品をモ一度、ライン機に流せば測定でのスクリーニング回数が倍となる。
詳しく説明すれば、ライン機では、マズはダイオードの方向を揃えるのです。
通電はするけど、ダイオードの極性を一定方向に揃えるだけの目的、揃えへんかたら特性が測定出来んからで、スクリーニングとしての良否の判定無し。
次ぎが一発目の測定で、基本的特性を測定。二発目で決められた仕様の測定をして、標印して、インクを硬化させるための加熱をする。
三発目は硬化の熱により、特性の変動が有るための測定する。特性の変動とは主としてオープン不良が標的で、オープン不良だけをスクリーニングするので無いから、都合三回の測定です。
一度流しで三回測定してるから、二度流しなら六度の測定となり、間違い無く不良は減少する。
よって、急遽、「ライン機二度流しの法」で対応する事となた。
其の替わりに製造の二度手間となる故、所謂ソニー向けだけの特別仕様。
手間暇掛かるし、その他のとの区別のための管理も要るし。経費等々の細々した事は生産管理同士に任せまして。其処までバラス事は無いけれど。
何せ、三十年前の話やし。此れがダイオードの特別仕様の第一号となた。
以来十年間、ライン機の最新鋭機、最新技術でも計測器が出来るまでは外せぬ仕様となてしもた。
其れから十年後なら、私も工程を熟知してるし、一応は電気工学専攻ですし。
古賀潤一郎氏、安倍晋三幹事長。ついでに小泉純一郎首相の如くに経歴詐称、意図的勘違いにハッタリ、誇張で無くての間違いでなく。
海外講習は受けた事は無く、日本でも塾には通て無いけど、塾は算盤だけやけど。
中学時代から習てた筈の英語は全然弱いし、喋れへんし、喋る勇気も無いし。ついでに専攻の筈の電気は忘却の遙か彼方やけどです。
ダイオードのスクリーニング法には構想が有った。こんな具合に出来ればと。
ダイオードとは、ガラス封止型だけでは無いです。LEDも、モールド型にも適用出来るのや。
水平展開、垂直でも構わへんけど、あらゆる電子部品にスクリーニングの考えは適用出来るやろな。
現に表現は悪いけど、ホカの製造部にも我が発想を盗まれた。
イヤイヤ、大いに結構です。計測プログラムの中に発案者の名前は刻んで無いし、真似されて、嬉しいモノです。何よりも品質向上のお役に立てれば幸せやんか。
中には発想の原点、思想を知らんから、頭だけで考えよって。製品に合致した条件を探すための確認実験、調査もセズに効果無しと判断しやがったり。
気に喰わん奴も居てました。他品種の品質管理担当者にこんな条件でやったらスクリーニング出来ると説明しても、モノが違いますと無下に無視しやがったり。
最新鋭機のライン機にはダイオードのスクリーニング方法、経験を注ぎ込んだ。当然なれど、後年、担当になたセンサーについてもです。
イヤイヤ、誤解無くです。最新鋭機を開発、設計したのは生産システム開発部門です。
機械屋さんと電気屋さんの開発担当者と何度もの打ち合わせをしたし、こんな事が出来ると教えてもろたし、工程導入後も測定条件の見直しはイヤと云う程、繰り返したし。
見直しても、満足とは云えへんけれど、何時まで経っても完璧では無いけど、当時とは何もかもが雲泥の差。
基本的には品質は製造設計、生産設備設計段階から考慮するべきモノ。不良品を造らず、阿呆でも不良品が造れない設計思想が重要。
勿論設備も重要なれど、余りに高度過ぎると、保全が難しくなてしもて、設計者が設備から離れられんよになって仕舞うのや。
殊に海外に出す設備は現地の保全担当者に相当なる知識、技術が要る。作業者にしても、阿呆では出来ひんやろな。
電子部品の製造技術としては、出来て仕舞た不良が流出しない計測技術、設定条件、規格が最重要であると信じてる。何故なら電子部品であるからにして、電子計測出来るのや。
簡単には、昔と違いまして、技術的にも計測の難しい特性でも自動計測出来る設備が世の中に存在してるのや。
存在し、導入しても特性不良がスクリーニング出来んプログラム、スクリーニング条件がプログラムされて無いのでは計測の意味が無いし、宝の持ち腐れで勿体ない。
そんな事では、計測器の中身として、三十年前と替わらん事になるやろな。でなければ、市場への不良流出が何桁も下げられるもんですか。品質向上、生産技術の向上には計測技術の向上が何よりも大きな要因であるゾ。
よって、安直と評したけれど、三十年前なら、「ライン機二度流しの法」も明解なる対策。
(04/02/11)


NO.9 アオイ電子に出張(8) 信頼性の基本

ライン機に搭載の計測器能力についての解説してたら日が暮れる。
解説出来ても表面的になて仕舞う。
理由は簡単。専攻が電気工学でも、電気を専門にしてたのでも、計測器を設計したのでも無いからでして。
要は専攻してても、業務としてやってんとモノには成らん故、エラソに云うたらアカンのや。
そんな云い訳は別として、ダイオードの基本的特性は三種類。
順方向電圧、VFですが。逆方向の漏れ電流は、IRで、逆耐圧のBVが有るのです。
一度の測定で基本特性を一回づつしか測定出来ひんかったのが、測定出来る項目、方法が増えたし、測定回数も増えたのです。其の分、ライン機の長さも構造も変化したけれど。
測定器能力だけなら、五年に一度の頻度で大きく進化してますが。細々となら日々前進。とまでは申しませんが、日進月歩ならぬ、月進年歩。
初期の単なる定点測定からマイコンに寄る多点測定に。分解能も極めて佳い加減の適当からです。例えば、漏れ電流IRでは、0.1μA(100nA)から、1nA単位にと。
其の分、アース技術も向上してますが。微少電流であっても、1nA単位で測定して意味が有るかとなれば、要求する顧客も有るからでして。
佳い加減、適当なる測定では保証は無理で、誤魔化し、誤魔化してたのをホントに測定出来るよになったりで。
誤魔化すとは語弊が有る故、表現を上手には、理論的に保証は出来てるし、実力的にも充分なる余裕です。
要は電子部品なるモノ、あらゆる手段を駆使して測定項目、回数を増やすが最善の策。壊れソなのは破壊して仕舞うの法も有る。
信頼性とはそんなモノです。破壊され易いのは市場で壊れて迷惑をお掛けするよりは製造段階で壊してしもて、出荷しない事。
そのためにはあらゆる手段、測定条件、項目、破壊条件がミソでして。此処に経験と技術力の蓄積が盛り込まれる。
折角の破壊条件も、破壊出来んも、破壊させ過ぎでも、半殺しもアカンやろな。
外観にしても、人の眼に頼るしか無かったのが、画像認識技術の進歩で、スクリーニング出来るよになた。
イヤ、到達までには、理想の探求と失敗の繰り返しの長い、ナガイ、歴史がありますが、条件出しが難しい。
他社電子部品製造工場の見学はした事は無いですが、させてもクレませんが、材料メーカーなら見てますが。相応の計測技術で以て、スクリーニングされてるのです。
余談なれどです。信頼性技術とは計測技術として、過言で無いです。
人間の病巣にしたって、血液検査で大半の事が分かるよになってるやんか。計測技術の進歩で体の内部を診られるやんか。
不良を造らない。造れない構造の製造設備であるのが肝要なれど、アッサリ云えば無理なんや。
機械が常時、正常に稼働してたら問題無しなれど。機械には故障が付き物でして。構造が複雑になればなる程、保全も大変で。
そしたら、計測器も設備であて、機械モノやから同じですが。其処の処を補完するのが品質管理技術でありまして。今時、計測技術で測定回路の自己診断も常識化してますが。修復機能まで出来ますが。
所詮は機械モノ故、盲信はアカンのです。自己診断回路、修復機能が故障してたらどないする。
其処まで心配するなと云うなかれ。プログラムの入力ミスはつきモノや。プログラムとは眼に見えずで、日本語でも無し。
簡単、数行の日本語でさえも読み飛ばし、読解さえ出来んのが世間に一杯、ウジャウジャ居てるのにです。意味不明の記号の羅列、プログラムなんか信用も出来るモンですか。
イヤまあ、実際にも入力ミスはありました。云うたら何やけど、プログラムは理解してたんや。理解してたら、余計に信用出来ひんのや。そんなモンなんや。
次世代に希望するなら、誰もが読解出来る言語、数値でプログラム出来るのを開発してクレ。
とは、私の勝手な要望なれど、工場が海外に出るのは仕方が無いとしても、日本での生きた品質管理技術の停滞が心配。
簡単明瞭には製造現場を見ずの頭でっかちの理屈ばかりとなりまして。
可哀想な面もあります。日本人同士でも意志の疎通が難しいのに、工場が海外ではソ簡単に出張も出来ひんし。言葉も通じひんし。プログラム言語よりも難しいです。
堅苦しい、技術の進歩は後廻しにして、アオイ電子は楽しかった。
関係者が相応の年代、若さやったし。業務を離れての遊びも沢山したし。
(04/02/12)


NO.10 アオイ電子に出張(9) 本格的レストラン(1)

出張当日であったか、二日目であったのか。
「柴田さん、社長が夕食をどおですかと云うてますが。」
とは、QCの西原主任から聞いたのですが。云い忘れる処でありました。
西原さんも現在唯今、アオイ電子の経営大幹部です。
其の西原さんからどですかと問われて、相手様が社長ではお断りも出来ひんやんか。限りなく、指示、命令やんか。
イヤ、社長とは初対面では無いです。抵抗器製造部の頃には見てました。正しく見てたのです。お話なんかした事無いですが。
簡単明瞭には身分が違う。私等みたいな新入社員か一年生か二年生、五年生にしても、話も無いです。遠き存在で、此の人が社長さんかと云うだけでして。
かと云うて、ローム、当時は東洋電具製作所ですが、社長とは気楽に話はしてた。社長は気楽な人やった。
入社早々、昭和四十四年ですが、ボーリング大会が有りまして。
当時はボーリング・ブームの真っ直中で流行ってましたが、大会が終わってから社長に呼ばれてタクシーに乗り込み、桃山のお宅にお邪魔した。
イヤイヤ、畏れ多くも一人で無いです。誰かは忘れたけれど、同期生が数人居てた。
協力会社の社長は別の意味で雲の上。何をお話して佳いのやら。其処まで心配無用でも、私は心配症でして。粗相が有ったらアカンやろな。でなくとも、緊張しいの訳知らずの礼儀作法は知らずで無知蒙昧。
とは云うても、ワコー電器の社長のお宅にもお呼ばれされたりもしましたが。
ハイ、畏まりましたと返事をしまして。業務を終えて、西原さんに引率されて、会社の門前で待機してたら、ロームの購買の藤原課長も居たはりまして。
来られてたんですかと。
そんな事はどでも佳いです。更には、実習でロームに来てた三野さんも居てまして。車二台、都合五名で往った先がレストラン。場所も屋号も覚えて無いけど、本格的レストラン。
正直なる告白すれば、貧乏人の小倅や。洋食なら喰た事は有るし、ナイフとフォークなら持った事も有るけれどや。其処等の安物食堂や。箸をクレと頼めば出て来るのや。
高校時代であったか、テーブル・マナーなる講習会が有りまして。講習を受けた事はあたけれどや。一回だけやんか。
しかも、講習会やから、気も使わへんやんか。ワイワイ、ガヤガヤとナイフが余ってしもたなと、友達同士で洋食なるモノを食事はシンドイな。丼が一番に気楽やでと云うてたのにです。
要は本格的レストランでの洋食なんか喰た事が無い。喰う処か入った事も有らへんがな。
イヤハヤ、困った。ホントに困った。
お店に入った途端に場所が違うゾと。私なんかお呼びで無い場所やんか。大衆食堂、メシ屋で佳いのに、社長のご招待ではソはならん。
社長がさりげなく、場所を指示されまして、課長と私が社長の真ん前で。
席に着ことしたら、ボーイさんが、椅子を持ってくれるし、余計に厭なんや。経験が乏しいも、全く無いからにして、信用出来ひんのや。座るのにズレが生じたら転けてしまうやろな。
しかるに、此の心配は今だに有ります。クレグレも結婚式場とかの話やで。
下手に椅子を持たれても、ガチリと手で掴んで仕舞う。断じて、離さん。好きにさせてクレ。座るくらいは自分で出来る。其処までモウロクして無いワイ。
社長と一緒の時は要領も分からへんし、ガチガチやたけれど。
加えて、カタカナ言葉で、レアですか、ミディアムですか、其れともウェルダンですかの何ですかやて。
ども肉料理であるのは分かったけれど、肉は大の好きやけど、とりあえずは、真ん中のにしてくれ。
そして、順々に料理が出て来るのに何がどやったか。何を使えば佳いかを、隣の課長に小声でお伺いしたらです。
「ハシを使え。」
「お箸を使っても佳いのですか。」
「イヤイヤ、ハシや。両端から順番にや。」
冗談では無いです。真剣勝負の内緒事です。社長のご面前で恥も書けへんやろな。大声で尋ねられへんやろな。イヤモオ、食事処で無かったです。
脂汗、冷や汗、タラタラと緊張で身の縮まる想いしたのを覚えてる。
(04/02/13)


NO.11 アオイ電子に出張(10) 本格的レストラン(2)

果たして、私が主賓であるのか、購買課長がそであるのか。
云うまでも無いです。自惚れて無いです。主賓は課長です。当時の課長職は幹部です。
其の前に品質管理の者が歓迎される事は無いです。
仕事を増やしたり、手を取ったり。設備を改善するにも只では出来ん。経費の要る事ばかりを要求する。
その点、購買に生産管理部門は歓迎される。購買は材料の調達やし、生産管理は製品の発注と買い上げの部門やし。工場の売り上げ、製造に直結するのに、品質管理は足を引っ張ってばかりと想われてるのでないかと。事実に近い面も有るけどです。
よって、タマタマ、私も居てたからツイデに誘われたのではないか。社長と食事をしたのは一回だけで、間近でお話をしたのも一回だけ。
ホカの工場の社長さんともそんなモノです。お話をしても一回か二回。二回も有れば多いほで、食事に誘われたのは全部合わせて、片手の指で余ってしまうか丁度です。単独では一回も無いです。
方や、購買に生産管理部門なら平の社員でもと云うたら失礼なれど、社長がとまでは別としても、工場の幹部と食事に外出は常でして。食事も昼食までが外出で。私等でも時たまならありましたが、仲間内やんか。などと、ひねくれては無いです。
そんな事はどでも佳いです。購買の藤原課長は気さくな人でした。
歳は軽く一回りは違うのですが、私等若造にも気楽にお声を掛けて戴きまして。
社長はとなれば、超のつく紳士。髪は七三にビシリと分けられてまして。橋本龍太郎みたいな感じで、成る程の雰囲気が漂おてた。
イヤイヤ、そんな外見とは裏腹にお話の中身は軽やかやた。
簡単には私の身上調査みたいなモノでして。
何時入社されたのですか。出身地は何処ですか。何処の大学で何を専攻したかとか。何度かお会いしてますねえ。
会社で社長のお姿を拝見すれば、お辞儀程度はしてますが。
そんな話が終わったら、社長ご自身の事でして。
ハヤマ楽器をしてたのですよ。クレグレも誤植で無いです。ヤマハでないです。ハヤマです。
話がありましてねえ。電子部品を造らんかと。楽器屋が電子部品を造れるのかと心配でした。
等々で、ガラリと話が替わって、同期生は誰ですか。
私の同期入社組を知ったはるのかと想いつつも、説明したら佳くご存知で。云うても十数名しか居てないけれど。
彼は四国出身です。彼は東京からでしたかねえ。彼は京都で営業でしたか。早くに辞めましたねえ。其の彼は名古屋出身です。
そんな事まで知ったはたら、私の事も知ったはる筈やで。
本格的高級レストランで、テーブル・マナーの実地訓練。冷や汗、脂汗、カキカキ、ガチガチに緊張し乍らもそんな事を想たりも。
そして一番に印象に残ったのがです。
食事も終えて、値段書きか請求書か。出されたメモ用紙にサインをされた万年筆が見るからに高級。
当時は万年筆が現役やた。鉛筆も現役で消しゴムもや。
出されたのが金ピカなんや。親指以上に太いのや。ズシリと重そなんや。
正しく、ファンテンペンの称号に相応しい高級万年筆。社長ともなれば、こんな凄いのを持たんとアカンのかと。
私みたいな、一本、千円か、そんな程度のを持ってたのでは社長としての値打ちが無くなて仕舞うよなあ。
しかるに、一本千円でも高いのです。
昭和の五十年代に入った頃です。大卒の初任給にしても、五万円程度。当世の四分の一やから、値打ちからしたら、四倍になて、千円でも四千円相当で高級品。
社長のなら、軽くン万円はするのやろ。もしかしたら、ン十万円。
今では使う用事が無いし、持ってませんが。コンビニに有るかと想たけど、インクも置いて無いです。
(04/02/14)


NO.12 アオイ電子に出張(11) ホテルに黒鬼出没

実際問題としては、技術関係の出張者を社長が一々面倒見てたら大変です。
私にしたって、京都と四国高松工場を往ったり来たりの往復ですし。社長と仕事の細々した話をしても意味無いし。
最初は国鉄やったのですが、愛車のホンダZで往く事もあた。
ホテルから工場までの最寄りの駅も遠いし不便やし。バスは何時来るのか分からんし。往復をタクシーにするのも、領収書を紛失したら精算は出来ひんし、帰社時間もバラバラでして。
とは明かなる口実で、本音は車に乗りたい時期やんか。
しかるに、西原さんと一緒に食事をし出したのは車で通勤するよになてからでして。西原さんはペーパー・ドライバーであった筈。
ソか。車で来てるのか。
あっち往けこっちと、方向を指示されて、高松の繁華街、飯屋を徘徊した。二度は有るけど、三度と同じ店に入ってないです。近辺、駐車違反でも無かったけれど、車を置く場所が無くて、ホテルに置いて出直したり。
飯を喰たら、適当な処で降ろせで、或いは、此処でサイナラと。其れから先は多分なら赤提灯やろし、お住まいが何処かは知らんかた。
ホテルに戻れば風呂につかって、寝るだけやし。
あとは、テレビを見るだけで、ホカにやる事が無いです。云うたら何やけど、ホテルでテレビを見ててもつまらんのや。
当時はドラマもクイズ番組も、洋画劇場にしてもです。何週間か前のをやってたのです。新しいとしたら、ニュース番組だけでして。
テレビを見ててもつまらんし。酒も呑まんし、西原さんのおつきあいで赤提灯に興味は無いし。
ホテルを出て、適当に繁華街、賑やかな場所に足を運んで、寄ってたのは瓦町の宮脇書店だけ。いやまあ、カワラ町です。京都にも河原町が有るゾと。
繁華街も閉まるのが早いです。高松は至って品行方正なる町でして。私等呑まん者に対してだけですが、夜の七時で閉店してた。七時はチと辛いです。大抵なら、仕事の終われるのが早くて七時やんかいさ。
一週間に一度も寄れたら万歳三唱。タマには八時まで開いてたりして。常磐町商店街も田町もブラリと散策したのですが、兎に角閉店時間が早い。
イヤ、万年筆までは要らんけど、筆記具、文房具を買うのに苦労した。
工場に頼めば手に入るけどです。業務用でも、余程の緊急でない限りは遠慮するべきでありまして。
宮脇書店から、ホテルに戻れば、ロビーに見慣れた人、出来あがってしもた、西原さんが居てたりしまして。
「柴田さん、一緒に呑みませんか。
時間も早いし、する事も無いでしょ。」
時間が早いは確かやけれど、誠に豪傑でありました。
そんな背景が有ったから、金縛りを体験したのでないかと想たりも。(「不可思議の世界NO.1」11.続.占いの話(4) 私の霊体験)
実際、寝込みを襲われた事が何度もあた。
夜も十二時を過ぎてのピンポン、ピンピン、ポンポン、ピンポンポンと、五月蠅い程にチャイムが鳴って。こんな時間に何事かいな。誰かいな。
ドアを開けて、妙齢の美女がニコリやたら、大の歓迎やけどやで。
赤鬼がニタリとして、突っ立てタラ、ビクリするで。恐怖やで。うなされるで。気絶するで。絶叫するで。引きつけを起こすで。
さりとて、帰れ。馬鹿タレ。消え失せよ。寝てるのや。
とも云えへんし。チとだけやで。一杯だけやでと念には念を押しまして。
西原さんは日本酒かビールの一杯。私はコーラの一杯でのお付き合いしたとするより、させられた。
チナミニですが、赤鬼は嘘です。
西原さんは老け顔、オッサン顔の色黒で、腹黒まで云うたら怒りよるけど、黒鬼や。
(04/02/15)


NO.13 洗浄方法の変更(1) 防錆剤の調査(1)

事程左様に西原さんは顔とは裏腹に愛嬌の有る人やった。
顔も黒いし、腹も黒いヤロとは冷やかしで云うてました。
一見したら表情が乏しい故、根暗に見えるけど、話をしての二見では面白くて、三見目になると極めて強情。
表現を替えれば、納得しないと妥協しない人でした。
仕事上では相当にぶつかって。夕食を一緒に喰いながらも、アやコやと。口角泡を飛ばすとまでは云い過ぎでも、激論を展開したモンやたし、研究熱心でもありまして。相当に助けられもした。
仕事の話に戻って、ショート不良の次ぎなる課題は洗浄方法の改善。
実際には改善ではなくて変更ですが。
何の事かとなればです。ダイオードのリード線は鉄に銅を被服したモノで、前工程で組み立ててから、リード線に半田付けをするのです。
半田付けをしてから、ライン機で測定、標印するのです。
歴史的な話をすれば、開発当時は半田付けではなくて、鍍金をしてた。鍍金となれば、工場内では装置的にも管理面でも大変やから、外部の鍍金専門会社、明確には京都の上鳥羽にある北村鍍金株式会社(現、メテック北村)ですが、依託してたのです。
ローム内で平行して製造してた分はそのまま鍍金をしてたのですが、アオイ電子での量産品は半田ディップ方式。ディップとはDipで、そのままの半田付けです。理由は半製品段階で、京都、高松を往ったり来たりでは運送費用が大変やし、半田ディップ方式にしたのです。
半田付けのためには前処理としてのフラックス塗布工程が要るし、フラックスに浸して半田付けしても、フラックス残渣があるし、残渣処理のために洗浄してた。
其の洗浄液がメタノール。
メタノールは有機溶剤として、現在では使用するにも厳重なる管理体制が要るけれど、当時は極一般的な洗浄液で、チョッとしたカーテンで仕切をするか、蓋をする程度で、抵抗器でも使てたし。
私も抵抗器製造部時代には、ワコー電器での実験で小火騒ぎを起こしたけれど。
何処であったのか、ローム系列では無いのですが、小火ではなくて、火災が発生。
其れも一因ではあるけれど、もと大きな要因として製造コストを下げるのが急務となた。メタノール程度のコストは知れてるけれど、明確にはローム社長の鶴の一声。
結果的には此の当時、昭和の五十年に入ったばかりで対応したから有機溶剤が五月蠅くなた六十年代には無関係やた。
そんな事はどでも佳いです。
メタノールを辞めて仕舞えと指示されても、そ簡単な事では無いです。
されど、社長命令です。直接に指示されたのでは無いけれどです。
如何様にするかと云うても、メタノールがダメでエタノールにする訳にはイカンやろな。水しか無いです。
水に漬けたら錆が出るやんか。イヤイヤ、メタノールでも軽くオーブンで乾燥させたけど、水に濡れた儘の状態でオーブン乾燥させたら一発で錆が出るやんか。銅被服でも鉄芯やで。
錆を防止するには防錆剤を使えば佳いのです。
かと云うて防錆剤に何を使うかが大問題。私の直接の上司は同じ大学出身の化学専攻の家本係長。
いわば、化学系には強いのでして。サンプルを一杯集めてクレた。防錆剤のです。
正直云えば、一杯集められても、困るけど。調査が大変やんか。調査は当然にロームでですが、防錆剤の絞り込みです。
条件としては、水に溶ける事。乾燥させて、錆が発生しない事。
乾燥させても防錆剤の残渣が無い事。半田付け性に影響が無い事。
当たり前の条件やけど、意外に難しい。
結果、集まった資料は全部ダメやった。しょおが無いから、片っ端から電話して。防錆剤の会社の営業さんにですが、こんな条件に耐えるのは無いかと。
再度集まった資料で実験したけど、アカンのや。やってる内に分かったのは、粉状、固形、固形とは、錠剤でしたが、水に溶かすのが大変で。溶けても乾燥させるとリード線に粉が付着してるのです。
考えて見たら当たり前やけど。やってる最中には分からんのです。防錆剤メーカーも分からんから、適当に送って来るし。
しかるに、水との親和性の確保には防錆剤は液体でなければアカンのや。
(04/02/16)


NO.14 洗浄方法の変更(2) 防錆剤の調査(2)

防錆剤やから、防錆効果は有りますが。
水に溶け難い故、粉と固形は真っ先に削除して。液体だけにしても種類が多い。十種類も有ったのか。
正直云うてやってられへんで。手間暇掛かるで。化学実験の研究所やあるまいに。サンプルの管理だけでも大変やで。とは愚痴をこぼさず。
溶ける、溶けへん。防錆効果の程は机のウエで、ビーカーでも出来る。ビーカー段階で半分に絞り込みまして。液体でも全然溶けへんのも有るのんや。
そして、其処から先の調査が要るやんか。水との配合比が有るやんか。水100に対して、防錆剤幾らです。
何処まで薄めたら効果が無くなるのか。濃くしたら、防錆剤の残渣が出て来るのか。リード線に付着して仕舞うのかです。マダマダ調査事項は有るけれどです。
話はドンドンと細かく成るのです。先に先にと進むのです。ツイデに値段の問題も有るし、調達のし易さも有るやんか。特殊過ぎても困ります。
一抜け、二抜けの三ダメで、遂に一種類になたのですが、ハッキリ云うたら此処までは簡単。
配合比が一番の課題です。
マズは薄めて薄めて何処まで薄められるかで。水に対して、0.1%で防錆効果の有るのが分かった。
話としたら、水に0.1%の防錆剤を混ぜるだけやけど、此の液体は粘度が高い。混ぜる先はビーカーです。
やってたのは1000ccのではないです。500ccのビーカーやから、0.5ccなんやで。化学の実験室では無いのやで。
ビーカーが有るから、メスシリンダーも有ったけど。0.5ccも大変やけど、計量した液を出し切るのがもと大変なんや。
水で薄めて出したら佳いのやけどです。ナカナカ、気がつかんかったんや。化け屋と違うのや。私は電気屋はんなんや。
0.1%で効果が有るのが分かっても何処が限度かの調査は要る。更に薄めて、薄めて、0.0の幾らか忘れたけれど、0.5%以上とは想てるけれどもオーブン乾燥で錆が出た。
錆が出て安心したで。下限が見つかったのは大きいのです。
今度は濃くして濃くして、何処まで濃くしたら残渣が出るかを見極めたら、1%となた。ムラムラの残渣がガラス管、リード線にくっつくのです。オーブン加熱でこびり付くのんや。
よって、0.1%から1%以下の範囲となるけど。安全を見て、0.3%から0.7%の中心値、0.5%と決めたんや。
上限に余裕を見たのは、ムラムラの残渣が取れへんのや。ムラムラが残ってると半田も付き難くなる。
下限も余裕を見るのは工程ではバラツキがつきものやからや。少々の無茶をされても問題が無いよにしとかんとアカンのや。
しかるに、此の防錆剤は、「サベット」と称する。
誠に相応しい名称でして。原液ならフラックスとしても使える優れモノやた。
イヤイヤ、調査が終了してからハタと容器の説明文を見たら英文で、輸入品やた。翻訳したら、防錆剤でありの除錆剤やた。
早い話がフラックスでもあるからにして、フラックスとして使えて当たり前。しかも、NASAで宇宙開発用に開発されたから優秀なんや。
私は頭っから防錆剤と想てたし、粉、固形も含めて英文のは何種類も有ったし、気にもしてなんだだけ。
ホボ、目処が付いた処で、工場、アオイ電子に一報入れて、カクのシカで近々にも出向く故、水洗用の洗浄槽を準備されたし。ついでにビーカーとメスシリンダー。
とは西原さんにですが。
アオイ電子でビーカーでの調査を再確認では無いです。確認なら厭と云う程してるワイ。
原液を予め薄めてしもて、工程では計量をし易くするためや。
しかるに、短期間、たったの一ヶ月で結果を出すため、飯も喰わず。三度の食事も一度にしての不眠不休は嘘も嘘の大嘘やけど。
拉致家族問題のチンタラ、ボケナス政府、成果も無いのに大成功と身内だけが評価の大嘘よりは大マシの、爪の垢の微量、水に薄めての、0.1%でも呑ませたいのはホンマですが。
調査に調査を重ね、其処まで配慮しての意気揚々とです。
斯くなる次第の大成功であるゾ。自信満々、鼻高々のレポート、指示書替わりの洗浄方法についての技術標準書まで作成してや。
即刻工程は全面実施セヨ。
メタノールは廃止であるゾと、サベット、一リットルのポリのタンクを愛車ホンダのZに積み込んで。
準備万端整え、単身、四国は高松に上陸やけど、話はソ簡単に往くもんですか。
無茶苦茶になて、顔面蒼白、泡を喰た。
(04/02/17)


NO.15 洗浄方法の変更(3) 防錆剤の導入

勿論ですが、工程変更には大きさが有るのんや。
ショート不良対策としての、ライン機二度流しは安直簡単。
ペレット・クリーニング条件の見直しも大した事では無いです。条件が出たら、即やれば佳し。
洗浄方法の変更はソ簡単では無くて、大きいです。
そやから、防錆剤、内実は除錆剤としても使えるけれど、防錆剤として使うからには防錆剤ですが、技術標準にも防錆剤、「サベット」と規定したのですが。
兎に角、材料の選定から条件出しまで慎重に調査したのです。
結果は全てレポートにして、関係者には報告して。関係者とは製造部長に上司に生産管理です。
技術標準まで作成してや。勿論ですが、ペレット・クリーニングも改訂してますが。こんなモノは数字だけの事やんか。
全員一致で分かった了解となった故、意気揚々、四国高松に馳せ参じた。
社長命令とは云えど、一存で出来ますかいな。実験試作工程では無いです。量産工程や。
到着するや否や、アオイ電子の関係者にはレポートと技術標準を示しまして。カクカク、シカジカで工程変更したいと通達。
アオイ電子にとてもメタノールを辞めて、水で洗浄出来るとなれば悦ばしい事です。副資材としてのメタノールが要らんよになるし、管理も楽やんか。
関係者一同、諸手を挙げて賛同。分かりました。早速、やってみましょ。
かと云うてイキナリのメタノール槽をゴソリと水にして仕舞うなんかは致しません。念には念で、平行してです。
工程責任者には見本を示さねばなりません。西原さんと一緒に作業準備。
マズは大きなタッパーに水を入れまして。云うたら何やけど、私自らサベットを調合しまして。
佳く見とけ。こんな具合にするのやぞ。佳く佳く撹拌して、隅々にまで防錆剤が往き渡るよにしてください。
自信満々、此れで佳し。さあ、一発目を投入してクレ。
金網でこさえた容器に半製品を入れて、タッパーに放り込み、バシャバシャと洗浄したら、信じられん現象が発生した。
繰り返し、繰り返し、確認してた時には微塵も出て無かったのに、泡を喰う現象が発生した。
何とまあ、泡がブクブクで正しく泡を喰た。多少の泡で泡喰うかいな。
ちっとやそっとの泡では無いです。泡でタッパーが埋まった。水面が消えてもた。溢れ出た。
まるっきりのシャボン玉でも造ってるみたいに見事なまでの発泡。
スグにも収まれば問題無いけど、収まらん。暫し待って収まってから、どやろと次ぎなるロットをバシャバシャとやれば、再び泡が出て来てしもて。
三人して、顔を見合わせ、困ったなあ。
どします。
どしますかと問われて即答なんか出来るもんか。予測もしてへん現象やんか。
すんなり往くと想てたのや。
予測してたは、相手が水だけに、メタノールの乾燥時間よりは長くなる故、時間の調整は要るやろと。想いはしてたけど、乾燥時間の話なんか些末な事になた。
さあ、どする。どしたモンやろ。
泡喰て目をパチクリで困っても居てられへん。問題を分けなしょおが無いです。
泡の対策なんか、すぐに想い当たらへんやんか。出来ひんやんか。
緊急策なら有ります。「サベット」の濃度を下限方向にチとずらすの秘策、0.2%から0.4%の中心値、0.3%に設定するとした。
ずらせても、調査結果からして、効果は充分にあります。其のための余裕率でも無かったけれど。別の発想からやけど。
急遽、0.3%に調整して。其れでも泡は出て来るけれど、シャボン玉みたいにブクブクでは無くて、相当に収まってくれてホッとした。
シャボン玉が出ても、防錆効果に替わりは無いけれどです。気分が悪い。
此の現象も後では笑い話になたけれど、そのときはホントに泡を喰た。泡喰た処でなかた。顔から体から血が退いた。貧血で倒れソになた。其処までは嘘ですが、近かかった。
意地悪鬼め。とは、工程に巣喰う鬼ですが。ウシロから不意打ちの鉄棒でガツンと脳天を割られたよな気分やた。
イヤ、実際にも工程には悪鬼、青鬼、赤鬼、黒でも黄でも、ウッジャウジャと魑魅魍魎の如くに巣喰てる。
準備周到してても、正確にはしてるツモリでもです。ビーカーとタッパーでは違うし、工程としての洗浄槽ではもと違うけど。
物事全て、一発で想うよに往ったためしが無いです。さりとて、実際の工程で細々した実験なんかしてられへんやろな。
単なるQC業務だけではつまらんで。はっきり云うたら、技術系事務屋やんか。
泡退治、鬼退治にこそ、生産技術、品質改善、向上のための知恵比べ、醍醐味、面白さが存在する。
しかるに、難っくき泡めは放置してないです。木っ端微塵に粉砕、押し込めるに成功してる。
(04/02/18)


NO.16 洗浄方法の変更(4) 消泡剤の導入(1)

「サベット」で泡を喰たね。
アオイ電子の面々からは後々まで冷やかされた。泡のホは濃度の調整で逃げたけど。
予測出来ん事態発生とは云えど、逃げるは誠に気分が悪い。重症で無いから深刻では無くとも、洗浄槽を見る度に泡がブクブクでなくて、ブクやけど、コンチクショウめ。
金網に入れての洗浄やから、水だけでも多少は泡も出るけど、気になるやんか。
さりとて、泡対策をビカーで調査する訳にはイカンやろな。或る程度の大きさのある槽でなくては再現出来ひんし、工程でなければな。
しかるに、世の中には消泡剤なるのがあた。そのままの泡を消すモノ。イヤイヤ、消泡剤なるのが存在するのは知らなんだ。
当世ならインターネットの検索でキーワードを何にするかも有る故、一発では無理でも、二発目か三発目で何とかなる。
電子計算機が幅を利かしてた時代やで。空調つきの部屋でお守り役を何名も従え、携帯電話も無かったし。
調査は電話で聞きまくるしか無いのです。されど、まくる程でも無かった。
「サベット」の代理店に聞いたら、一発で分かった。
防錆剤、除錆剤は勿論の事、乾燥剤、除草剤、殺菌剤、抗菌剤、消臭剤、口臭剤に洗剤にです。栄養剤並にまでは嘘としても、消泡剤に発泡剤は其処等に転がってるのやて。
何やな。そんなんかいなと、早速、西原さんに連絡したら、以心伝心、手配までしてくれてた。
「柴田さん、ありますよ。信越化学製のを手配しました。」
モノは乳白色の液体やた。中身が何かとなれば、超簡単にはシリコン液。シリコンが針状になてまして。
消泡の原理としては、針で泡を突き刺し、破裂させるの秘法なるぞ。
どんな処に使われてるかとなれば、泡が邪魔な処としか云いよが無いです。用途が広い。食品の添加剤に使われてるし、私の好物の豆腐の製造過程でも泡が出るのやて。微量で効果満点の消泡剤です。
しかるに、どの程度を混ぜたら佳いのか分からん。
果たして、防錆剤の0.3%が微量かどかですが、%で示せるなら大量です。細かな事は忘れたけれど、確かに微量で消泡した。たったの一滴、洗浄槽の泡が消えてもた。
出来るとなれば、工場はする事が早いです。早速にも、全面実施したのです。よって、タッパーから洗浄槽となってます。
勿論ですが、適当に一滴。とは規定出来ひんし。「サベット」の百分の一程度に決めたのか。
そしたら、余談なれど、「サベット」が何に使われてたかとなれば、防錆剤としてよりは除錆剤としての用途が多い。
面白いのは、パチンコ台の錆取り。ドボンと漬けてしもて、水洗いをしたらお仕舞いなんやて。
昔は中古のパチンコ台を売ってました。私も一台、買おてもろたんや。
中学生時代と想てます。値段が幾らかとなれば、百円はしてなんだ。五十円やろか。叔父が買おてくれたんや。
一粒三百メートルのグリコ一箱は十円やたかいな。貸し本の漫画が一冊十円で。
中学生で戴けるお年玉の相場が百円か二百円の時代です。親戚廻りをしてもナカナカくれへんかったけど。中学生の分際で、常平生にそんな大金を持ち歩く事はナカタけれど。
パチンコの玉はパチンコ屋さんに貰い往た。嘘や無いです。買うのでなくて、貰いにです。そやないと、折角のパチンコ台が宝の持ち腐れになるやんか。
西洞院の四条にあったんや。今でも有りますが。十八才未満お断りのパチンコ屋に中学生が入ったら明かなる不良少年。
ニキビだらけの高校生なら一発で補導でも、中学生が入るは珍しいです。今時と違いまして、中学生は正真正銘の純真無垢。パチンコ屋なんか、ヤクザの入る処です。人相の悪いのバカリの溜まり場です。
実際、左様に教えられてたですから、怖々なれど、何かの間違い、迷い込みと想われた。お客とお店の人にです。
ボク、ボク、何処に往くのや。迷子か。お父ちゃんを捜してるのか。
親父はパチンコ等々のギャンブルはしてなんだ。私以上の品行方正。
兎に角、真正直に申しました。パチンコ玉が欲しいのや。
パチンコ屋の兄ちゃん曰くに、困った子やなあ。
されど、まともに云われて、ショオガナイなと小さくなたのをクレました。
しかるに、パチンコ玉はパチンコ玉同士で擦れて、コスレテ、次第に小さくなるのですて。一個一個にお店の記号が刻印してあて。消え掛かって来たら、廃棄処分にするのやて。
とは、兄ちゃんが教えてくれて、ボン、ボン、其れをヤルからササと帰れ。
そんな調子で臆面も無く、二三軒廻った。一軒分だけでは正真正銘の玉不足やた。
そんな話はどでも佳いです。かと云うて、私の中学生時代にサベットは日本に上陸してなんで、多分なら、大学生の頃やろか。もっと先やろか。
よって、夜店で売ってたパチンコ台はサビサビのボロボロので、本来ならば、放すだけのモノです。
只でも佳いのにな。擦り切れのパチンコ玉みたいにです。
(04/02/19)


NO.17 洗浄方法の変更(5) 消泡剤の導入(2)

事程左様に泡喰ても、分野に寄っては至って簡単、常識の事がある。
以来、「サベット」と「消泡剤」はガラス封止型ダイオードで半田付け後に水洗浄する限りに於いて、現在唯今に至っても、無くてはナラヌ不動の地位也。
勿論ですが、洗浄方法は着実なる改善が進んでます。
そもそもが、メタノールと水では洗浄力からして、比較にならん。明々白々、当たり前に水が劣るに決まってる。
洗浄力が劣るとどなるか。フラックス残渣が取り切れへんのです。
ガラス管、リード線に付着する。付着すれば、商品価値を著しく低下させる。著しく程では無いけど、外観的にも見映えが宜しく無いです。顕微鏡で見たら一発で分かる。目視でも艶が無いですが。見慣れて無いと分からんのですが。
所詮は水です。或る程度は止むを得んのですが、品質向上のために手を加えた。
加えるのは設備担当の出番です。手腕とやる気です。川地さんが色々とやてくれた。
川地さんは設備担当出身で製造課長に昇進。当時のアオイ電子の製造課長とはダイオード製造工程の責任者です。成る程の行動力があて、知恵者です。
やる事が素早く、佳く助けてくれた。感謝感激雨の霰。
出張で往く度に洗浄槽が替わってまして。洗浄槽だけで無く、色々と手が加わってました。
或る意味、危険も一杯でして。云うたら何やけど、其れを看破するのもQCの目。兎角に工場では佳かれであっても、無茶苦茶する事が有る。アオイ電子では即刻元に戻せは少なかたけれどです。
話を戻して、マズは三槽にされました。メタノール洗浄も三槽あて、新品を最後の洗浄槽。古いのを順々に前のほにしてたのです。
一番古いのは最終的には廃棄処分。さもないと、半田滓にフラックス残渣、その他諸々の洗浄で落ちた汚れがメタノール槽に浮遊して製品にくっつくやんか。
同じ調子で水洗浄を三槽にして、ジャブジャブと浸すだけでは汚れが落ち難い故、バブリング法と称して、泡を吹きつけた。洗浄槽を泡風呂みたにした訳や。
更には、流水洗浄にして、モ一度更には冷水の泡風呂から温水泡風呂にした。
バブリング、流水、温水は只の水だけよりも洗浄力が勝るに決まってる。
但し、流水以降は別の工場でして、温水泡風呂になたのは水洗浄に移行してから二十年を要した。
簡単な加工でなくて、自動機になてです。其れでも、「サベット」に加える事の「消泡剤」は健在也。
流水でどやって比率を守るかとなればです。バラしてしまえば、循環やんか。
マダマダ、細かな改善はあるけど、説明するのが邪魔くさい。その前に一々覚えて無いです。
さて、消泡剤については話が有る。
当たり前に何かをやれば、副作用の可能性が存在する。よって、予測される副作用は評価確認のウエでやってるのです。
しかるに、「サベット」と「消泡剤」の副作用、最大の不安材料としては標印の耐溶剤性。
耐溶剤性は、「サベット」以前にメタノールから水で洗浄するに際して留意するべき品質項目やた。
耐溶剤性とはです。
そもそもが、アッセンブリー工場、アッセンブリー工場とは日本語では組立工場の事やけど、家電製品等々の組立を意味し、ダイオードを基板に半田付けした後で、矢っ張り洗浄するのですが、洗浄液で一番に上等がフレオンやた。上等とは高価で且つ洗浄力優秀。油脂分、汚れを一発で洗浄出来た。
フレオンとはフロンです。オゾン層破壊の元凶として現在では使用停止、製造停止になってるけれどや。
本来の洗浄液とは溶剤を指しまして。そんな意味からは、エタノールもメタノール、シンナーも溶剤。正式には有機溶剤。
ダイオードの標印、標印とは目印でありまして。
品種を示し、インクをガラス管につけてますが、フレオンなる溶剤は洗浄力が強い故、急速に広まったのが此の頃やた。
しかるに、耐溶剤性が云々され出したのも此の頃。基板に半田付けしてしもたら、標印が剥離しても関係無いのにです。
不良発生の際、外してしもたら、取り付けられてた方向が分からへんからやて。基板には方向が印刷されてるのにです。
通らぬ、屁理屈は辞めにして。やっとの事で、耐溶剤性の話になるのですが、標印されたサンプル、日本語では供試品と申しますが。
サンプルをフレオンに漬けて。其れこそビーカーで結構。
浸して、超音波で何分かです。標印が取れるか取れへんかの評価法を云いまして、JIS(日本工業規格:Japanese Industrial Standards)、MIL(米国軍事規格:Military Specifications and Standards)の当時はMILにて規定されてた。
話簡単にはエタノール洗浄時代でもフレオンでは保たんかた。超音波をしたら、ガラス管に鉢巻き状につけた標印がそのまま鉢巻き状に取れてしもたんや。
JISではイソプロピル・アルコールかアセトンでして。此の程度なら大丈夫。
其れ程にフレオンのしかも超音波ではお手上げ状態やた。
されど、MIL規格に何とか合致させたいとするのが、品質向上の目標でもありまして。
拡販するにも、MIL規格に合致してますと宣伝出来る。
モと云うたら、屁理屈云うても、洗浄で標印が取れるより、取れへんのが佳いに決まってる。
(04/02/20)


NO.18 洗浄方法の変更(6) 耐溶剤性

標印の耐溶剤性の向上についての簡単な手立てはインクのメーカーを替える事。
ダケで佳いみたいやけど、材料を替えたらホカの条件、乾燥温度、時間を弄くって、評価が要るやんか。
早い話がインク一つ、替えるは容易で無いです。
実験機台でもあれば出来ますが、海のものとも山のものとも知れぬインクです。
ソ簡単に貸してはくれん。其処を何とか頼む。拝み倒して、やっとこさ。サンプルを評価しても大した成果は得られへんのです。
結果、延々とマーケム社のインク、マーケム・インクを使ってるのですが、商社を通じて他社の評価依頼が来るのです。
熱心な営業程困るのや。何回も何回も訪問されて、お土産一つクレへんのに。請求もしませんが。セイゼイ、年末にはカレンダー一枚。
インクだけやたら佳いけれど、あれこれと資材が有るのです。カレンダーばかり戴いても何処に飾るのや。
さりとて、イラン、持って帰れとは失礼千万、口には出さずに、ニコリと微笑み、有り難う御座います。タマには手帳をクレますが。全て、メーカー様の宣伝用。
そんな話はどでも佳いです。
一番に熱心やたインクがありました。何処のとは申しませんが、申せませんが、値段も安いし、何とかしたいと考えたけど、アカンものはアカンのです。乾燥で変色したりして。
顔料が熱に弱かったのですが、変色を抑えると生乾きになて、耐溶剤性以前に指の爪で剥がれてしもた。密着性の評価なら色んな手段があて、セロテープでどかとかや。
兎に角、マーケム・インクが優秀やた。優秀やから広く使われてるのですが、フレオン超音波では保たんかた。
処が、「消泡剤」で耐溶剤性が保つよになったのです。完璧では無いけれど、五分以内では鉢巻き状に剥離しなくなったのです。かと云うて、何分間保つよになたかまでは覚えて無いですが、正々堂々、仕様書には耐溶剤性で五分を明記出来たんや。
しかるに、超音波を延々とやってたら、何時かは剥離してしまう故、逆に何分間保つと、数字で表す事で実力値が判明します。
耐溶剤性が向上した原因、理屈は針状のシリコンがガラス管表面に付着して、インクとの密着性を佳くしたのでないかと勝手に想てるけれど、主成分がシリコンやから、其れ以外に何にも無いです。
消泡剤については、斯くなる次第で耐溶剤性対策としても有効と判明したけど、こんな事は珍しいです。
大抵なら何かをしたら、何かの反作用、副作用と悪影響が有るのです。
アオイ電子に出張しては、その他諸々細々と色んな改善実験、調査をしてたのです。
更には、QCの本来的業務の工程品質資料のレポート化です。工程では色んな品質データーを取ってるのですが、まとまって無かた。
必要であるからにして、手間暇掛けて、データーを取ってるのですが、次第に惰性となる。
指示されたからと、単に取ってるだけのデーターと化してるのもあるし。
そんな資料を洗い出し、何が必要であり、必要で無いのか。必要なモノは集計して関係者に知らしめるよにしなくてはなりません。不必要ならモノにより、辞めるか、手を抜くかです。
イヤイヤ、仕事の話は小休止。
ホテルに帰って、夜の繁華街、食事は済ませてしもて、寄る先として、飲み屋になんか用事は無いけど、時間潰しに丁度佳かったのは、防錆剤、「サベット」でご紹介のパチンコ屋。
高松ではパチンコ屋も品行方正の、京都では夜の十一時で閉店やのに、一時間早い十時までやた。
其れで充分と、毎日通う程の病気で無かったけど。佳く入ったし。
入ったとは玉がチューリップにで、負けた記憶が無いです。
但し、当世みたいに、ン万円の元手では無いです。多くて、三千円が相場の時代。
クレグレも、クレグレも昭和の五十一年の話をしてる。
(04/02/22)


NO.19 パチンコの話(1)

夜ともなればネオン街の灯りは皎々と。
光り輝き、手招きされても、興味が無いです。無関心です。避けて通ります。
飲み屋の灯り以上に派手ハデで、一段と目立つはパチンコ屋。
ビジネス・ホテルとしては広かったけど。其の分、宿泊代も安くは無かったけれど。出張旅費で出るから構へんのやけれど。社内規定ギリギリの代金やたし、浮きはしやへんけれど。
殺風景なるホワイト・ホテルの一室で一度見たよな番組を放映してるテレビを見てても、つまらんやんか。一人寂しく、侘びしいモンやで。辛気も臭いやんかいさ。パソコンでもあったら、気晴らし出来るけどや。そんなモン、二十年も先の話や。パソコンのパの字も無いわいな。
パソコンの無い分、今より漢字は知ってたわい。書けたわい。三十分も有ったらレポートなんか、書けたわい。
消しゴムで消しケシやけど、汚い字も気にはせずにです。
気にしても手書きしか無いのや。ワープロも無かった。タイプライターなら有ったけど、そんなモンまで持ち歩けるかいな。持ち歩くにしても、使い方を知わんワイ。
しかるに、高松の町にも慣れて来て、様子が分かって来たら、時間潰しに寄りつく先はパチンコ屋しか無いです。
当世みたいに、電子機器と化し、コンピューター管理、プログラムで設定された確率で以て、人間様が翻弄される時代で無いです。
人間様が遊ぶための遊技機であって、適当に遊べて、遊ばさせてくれて、三千円もあったら、無茶をせん限りに於いてはですが、二三時間は保ったんや。無茶とは玉の出えへん台にしがみついてたらの事です。出る台は出るし、遊べる台は遊べるし。
アッと云う間の五百円玉の時代で無いのんや。
チューリップにしたかて、何で以て、開いてくれるのかが分からんのでなくて、単純明快、入ったら開くし、開けば、ニ個入れで開きっ放しに出来るのや。そんな事が出来たんや。大した技術で無いです。誰でもが出来ます。
何なら、チューリップが開いて、小休止。呼吸を整えてから一気加勢に猛打劇打の、今時なら、パソコンのキーボードの練習ソフトと間違われますが。
玉が詰まってしもたら、ボタンを押して、店員さんを呼べば、オマケでチューリップを開けてくれるし、場合に寄ったら、両側二箇所のチューリップを開けてくれて。
場合とは、玉の残りが可哀想な程に少ないときで、サービス満点やから、詰まったら、待ってましたとバカリに当然のサービスを期待しまして。
今時、詰まるよなパチンコ台は無いのやなあ。云うても年に一度、お正月映画を見る時間待ちでしか入りませんが。
千円、二千円、三千円や五千円では遊ぶ間もあらへんやんか。腹が立つだけやんか。バカバカしいやんか。
パチンコは昔っから、ギャンブルなれど、ギャンブルの意味合い、程度が変貌してしもた。
ギャンブル性だけが高まって、其の分、人間性が無くなった。
朝の十時前、パチンコ屋で並ぶ面々の表情見てたら明らかに病気やで。女性が結構居てるし、異常やで。
昔なら女性云うても絡まれる心配の無い、お婆ちゃんやんか。実際に絡む奴は居てへんけれどです。
並んでる云うたら、ヤクザ風のオッサンやんか。朝から並んだ事は無いですが、並ぶに勇気が要ったんや。病気を世間に知らしめるみたいで。
今や、お若い面々が大半やんか。ヤクザ風のは押しやられたのか、仮面を被ってるだけなんか。ハタマタ、同等になったのか。
パチプロまでがモザイクもせずに、テレビ出演する時代で、ホントに病気やで。そして、年収幾らと公言しまして、世も末やで。テレビに節操が無いです。求めるほが無理ですが。
そんな話はどでも佳いです。昔の話をしたいのや。
無茶をせん限りに於いては遊ばさせてくれたし、適当に出してもくれた。余程の台で無い限り、山の一回は訪れた。
山の何処で引き揚げるかが大問題でして。下手に欲張るとスカンピンの確率が高かった。
よって、此処まで減ったら辞めましょと、目安をつけてたんです。
しかも、閉店間際になったら、佳く出たし。出してもくれたし、忽ちにして、回復したし。台によっては死んだままやったけど、お店はサービスしてくれたんや。
しかるに、出張先です。換金する場所を知らん。其の気なら、勝った奴の尾行したら分かるけど、そんなに勝ちもしてなんだ。
三千円も注ぎ込む事は殆ど無かった。大抵なら五百円から千円程度の元手で倍になた。反対には、三倍も四倍には出来なんだ。出来てたら、換金してますが。
何で負けずに連戦連勝してたかとなれば、周辺知らん人ばっかりやんか。パチンコは下手に仲間が連れ立っては負ける確率が高い。
負けてる奴が様子を見に来よるし。ハタの調子が気になって、集中出来ひんやろな。集中して勝てるモノでも無いけれど。
とりあえず、京都でやってるよりは気楽やで。アオイ電子高松工場の数百名しか知らん。顔だけでも知ってるとなれば、半数程度。
工場の大半、九割方は女の子やし、当世と違いまして、女の子は女の子でありました。
男の子は男の子やったし、パチンコ屋で女の子とバタリは絶対に、ゼッタイに無いのです。
有ったら、不良です。とまでは申しませんが、嫁の貰い手が無くなると心配まではどか知らんけど。パチンコ屋で遭おたなとは、軽々しくは口に出来なんだ。秘密を見た、見てしもた的感覚やた。
そしたら、対象はショート対策会議で集まってくれた、幹部十数名に他部署の連中やろな。
知れてるやんか。
やけど、不思議に遭遇するのです。勿論、男ですが。誰とは申しませんが。
其れでも勝てたし、勝たせてくれた。金額的には知れてるけれど。
知れてるから換金しやへんかったんや。
(04/02/23)


NO.20 パチンコの話(2)

人間、都合の悪い事は速やかに。
忘却の彼方に押しやるのです。
高松のパチンコ屋で連戦連勝の負け知らず。そんな事が有り得るのかと。
そもそもが、三十年も前の事やんか。正確に覚えてる筈が無いやろな。
果たして、何回往ったのかも、何処のパチンコ屋かも覚えて無いワイ。
ホンダのZで四国香川の高松に往ってたけれど、車ではパチンコ屋に往って無いです。ホワイト・ホテルから歩いて往ける範囲です。
商店街か、高松の駅前か。ハタマタ、琴電の駅前周辺かですが、何にも覚えて無いです。正確には、決まった店の一箇所では無いです。適当にです。云うても、二箇所か三箇所しか無かったのでないか。私の知ってる範囲がです。そして、お店の雰囲気が有るやろな。
入り難いとか、入り易いとか。何となく気に入ったとか。勝てる、勝難いもあるし、気に入った台の事もある。
されど、病気では無いです。フラフラと気がつけばパチンコ台に相対峙では無いです。一週間宿泊して、多くて二回程度。
時にはですが、日曜日も帰らずに滞在してた。土曜日が通常勤務の時代故ですが、下手に京都に戻って、出直してたら、交通費、時間的にも勿体無い時代です。宿泊してるほが経費の節約になるのです。
そんな次第で、もしかしたらの事やけど、土曜日の夜とか、日曜日に寄った可能性も大で、回数も何回か分かりませんが、十回で一回しか負けてなければ、勝ちっ放しと云えるやろな。
もしかして、此の当時が一番にパチンコ屋に往った時期ではなかろかと。此の時期でも京都で週に二回は往って無いです。佳く佳く往って、二週間に一回も無いです。病気で無いからやけど。
何年後かには、足が遠退き、「777」のが出たのがキッカケでパタリと辞めてモタ。
落ち着いてやってられへんよになたからで、以来、佳く往って、年に一回。時には五年か十年は寄り付きもしてなんだ。
玉貸し料が当世一個四円が当時は三円。
百円玉が通用してたけど、果たして、百円で三十三個か、三十四個であったのかは定かには覚えて無いですが、換金の場合の約六十%は一緒です。
しかるに、勝って、二倍か三倍になても、元手も五百円か千円やんか。換金で四十%も取られたら阿呆みたいやし、知れてるし、そんな額では勝った気にもなれへんし。勝った気になるために、交換はチョコレートを主にしてたんや。
チョコレート一枚が百円としても、千円も二千円、三千円も全部チョコレートにしてたらですが、私が幾ら甘党でも、夜毎夜毎、夜寝る前にチョコレートを一枚も喰たら腹壊す。胃腸が丈夫なほでは無いのです。
どしたかとなれば、煙草を一箱か二箱か三箱とか、多少のお八つ用にとチョコレート一枚を手元に残して、要は元手分をですが、後は全部、持って往ったんや。持て往った先はアオイ電子しかありません。
戦利品の多い時には工程にです。工程では対象人数が多過ぎて。ン百人も居てるし、班長さんにです。適当に宜しく頼むと一切合切、班長さんに任せてしもて。班長さんの存在は誠に便利やた。
戦利品の少ない時には、事務所とするのか、ダイオードの生産管理の子に差し入れや。
今更やけど、考えて見たら、考えんでもですが、心残りの事が有る。肝心のQCの子には差し入れなんか一度もしてなんだ。
理由はQCは身近過ぎるのと、班長さんなる存在が居てないし、マサカの一人一人に手渡しも出来ひんし。するにしても、人数分無いとアキマセンし。
戦利品の多い少ないは分かっても数なんか数えて無いし。何やら下心が有るみたいに想われるも厭やし、佳い格好するみたいに見られるのも何やからと、気を使た。
ならばと、お酒呑みで辛党の西原さんを捕まえて、班長さん替わりに甘いチョコレートを手渡して、佳きに計らえも失礼やろな。困らはるだけやろな。
よって、無難に他部署に配分したツモリなれど、パチンコ屋に往けば小勝はしても度々に大勝はして無いし、事務所は工場の入り口近くやたし、朝も早くから事務所の面々は出て来てたし、私も朝は滑り込みのギリギリでなくて、多少は早かた。
チョと寄りまして。手短にヤルわの一声で処分した。
かと云うて、生産管理にも班長さんは居てなんだけど、内実を知らんほが気も使わんやろな。
(04/02/24)